流派

BERUNです。

今年も早いところ、残り1ヶ月になりました。今年は例年よりも寒い冬になりそうですね。
思ったほど年内までに仕上げる駆け込みオーダーがなく、皆様が季節を大切にし、早め早めにお越しいただいたことをとても嬉しく思います。

Tweed jacket Style

メインカラーはブルーであるツイードのヘリンボーンジャケット。様々な色が入っており、遠くから見るとグレーに見えたり、光の当たり方によって色合いが絶妙に変化します。

お仕事柄、タイをされない方のため、ジャケットとシャツに存在感を持たせていきます。その方の持っている雰囲気を壊さないよう、慎重に選びます。今回はウインドーペーン(格子柄)のような強めの柄だと、その方には少し”出すぎ”のようなイメージがしたので、ツイード本来の良さが出るヘリンボーン柄で、色が大人しくも豊かなものをセレクトしました。派手過ぎず、地味にもならない、ちょうどよい仕上がりです。

座り仕事の方は、腰が前に出る傾向があります。横から見ると、綺麗にひらがなの「く」の字に折れ曲がっています。腰が前に出ることで、トラウザーズの後ろにも余分なシワが入り、ジャケットも余るところと突っ張るところがどうしてもでてきてしまいます。
わたしは、今のその方の本来の立ち姿ではない姿勢に洋服を合わせていくことはなるべくしないようにしています。その洋服を着たときには、自然と姿勢が立ち上がっていくような服を作りたいと思っています。理想的ではない姿勢に合わせたジャケットを着ても、やはり格好はつきません。その洋服を着たときは、普段の自分と在り方も姿勢も変わるものの方が、本当にいい服だと思います。
意識をするところとしては、お腹の奥にある「丹田(たんでん)」と呼ばれる部分です。ここに意識を置いていくと、自然と姿勢が理想のところに落ち着きます。これも意識をし続けることで、いつの日か無意識になってもできるようになっています。

こちらのお客様は身体の線が細い方ですが、そのまま細いシルエットにはしません。細く見せるところは見せ、強く出すところは出す。ビスポークの最大の長所は、既製品では大多数の身体に合わせなくてはいけないため、間延びしてしまうところを、メリハリを付けてその方のラインに仕上げることができるところにあります。
上着を着てしばらくすると、お客様が、「顔が小さく見えますね」と仰られたので、見え方のお話しもさせていただきました。小さく、細く見せるためには、何もかもミニマムにすることが必ずしも正しいとは限りません。こちらのジャケットは、ラペルと肩幅をしっかりと出しました。その影響で、顔が小さく見えたのでしょう。

伊ラルスミアーニ社の生地を使用した、起毛コットントラウザーズもとても綺麗でした。
色はダークブラウン。白っぽく退色していっても見すぼらしくならないいい深さの色です。
肉厚で、一見するとゴワゴワとしそうな見た目ですが、履いてみるととてもしっとりと柔らかく、履き始めからストレスがなく自然に履くことができます。これはさすがイタリアンファブリックです。肉厚さはシワの入り方で感じていただけるかと思います。

昨年お渡ししたBulmer&Lumb社のカシミアウール生地のチェスターフィールドコートを羽織り、冬のコーディネイトは完成です。

首元にはカシミアマフラーを合わせます。Joshua Ellis(ジョシュア・エリス)社のタッターソール柄。

Tweed 3piece suit

冬らしい洋服が続々と完成してきています。こちらはツイードのスリーピース。
ツイードにしては薄手で、柄もおとなしい生地であったため、ぜひスリーピースで作りたいと仕入れていた生地でした。
こちらを着用する方はまだ20代の若者です。これからの長い人生、このスーツと共に歩んでいけることがとても羨ましいです。

誰と出会うか

この仕事をしていると、本当にたくさんの方に出会わせていただきます。改めて思うのが、至極当然のことですが、誰と出会うのかで人の人生はまったく変わるということ。
どの流派の門を叩くかによって、所作、立ち振る舞い、好みまで、その人のアイデンティティが根本から変わっていきます。
わたしは今お茶を習い始めたばかりですが、わたしがご縁をいただいたのは、石州流という武家茶道です。周りの方でも意外とお茶をやっている方が多いことに驚きますが、多くの方は表千家か裏千家を習っていらっしゃるようです。なにが正しいという話ではありませんが、誰をきっかけにその道に入るのかで、人生は大きく変わっていきます。私も思い起こせば、数珠つなぎのように、この人と出会ったから今の私があると自覚する出会いがたくさんあります。

何かのきっかけでBERUNに来ていただいた方は、基本は英国のスタイルになりますが、もし違う洋服屋と出会っていれば、その方は今頃もしかしたらバリバリのイタリアンスタイルになっているかもしれません。ピタピタ細身のtoo muchなスタイリッシュスタイルになっているかもしれません。
お医者さんもそうです。東洋医学を学んだ根本治療を目指している方なのか、西洋医学で薬で症状を抑える治療に頼るのか。誰に任せるかで、180度変わるといっても過言ではないでしょう。
今はまさに、選択肢が昔に比べて格段に増えてきています。自分自身で選択をする力はもちろんのこと、決断をする力もこれからの人生は本当に必要になってくると思います。

納品も無事終わりました。スリーピーススタイルを基本とするからこそ作ることができるシルエットです。手前みそですが、腰の高さがなんとも言えない魅力があります。本来ツイードという粗野な素材ですが、ビジネスで使えるように、美しいシルエットを最大限まで引き出しました。

約4年程前、BERUNが神楽坂に移転したばかりの門を叩いたH氏。当時彼は22,3歳。彼の勤務先が神楽坂近辺だったこともあり、わたしがいるときには店に遊びに来ては服飾談議を交わす間柄でした。
あるとき彼がいつものように来店し、「今回はオーダーをします」と言ったときから、彼の服飾人生は大きく変わりました。当時23,4歳頃の彼にとっては、背伸びにしか見えないようなクラシカルな装いに身を包み、会社の仲間、旧友たちからは「どうした?」といわれたといいます。
わたしはただ、そのままでいいといい続けました。ただそのリアクションをありがたく受け止めていたら、いずれ自分自身のスタイルになっているから。

今回のツイードのスリーピースを納品し、彼が納品した直後から、明らかに、”すでに似合っている”のを感じました。それは彼が洋服を着る力が上がったからであり、周りの人たちに足を引っ張られても動じず、伸び続けていったからだと思います。

ボルドーのダブルモンクストラップもいい雰囲気になっています。ドレスにもカジュアルにも使える器用なアイテムです。
裾はシングルに仕上げています。生地のボリュームがすでにあったため、裾はすっきりとさせました。

昔に作ったグレーのヘリンボーンツイードジャケットも、自然と馴染むようになっていました。

人生は80数年のゲームであり、その人生をいかに楽しく、振り切って生きるかだと思います。社会の流れや世間の目に惑わされず信念を貫くこと。そうやって生きていくことが選択できる現代だからこそ、思い切り自分らしく生きたいです。

 


Atelier BERUN

東京都新宿区神楽坂6-8-23

http://berun.jp/
Facebook
◆Tel : 03-3235-2225

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です