現代のスーツ像

BERUNです。

初代ジェームズボンドであったショーンコネリーが、10月31日に亡くなりました。
わたしの中では、ボンドといえばショーンコネリーです。007という名作を不動のものにした名俳優の別れは悲しいですが、彼が残した作品を観て、しばらくは浸りたいと思います。

特徴的なシルエットである、ボンドスーツというスタイルを構築できたのは、ショーンコネリーほどの人並外れた体格があったからできたものです。それは決して我々一般人は真似をしてはいけない、スタイリッシュで格好いいテーラードスタイルでした。ですが、彼の作品を観ると、思わず真似をしたくなるのも仕方のないことかもしれません。そのくらい俳優として素晴らしいオーラを持った方でした。

ダニエルクレイグになるまでのボンド像は、ハードボイルドな感じではなく、ニヒルで柔和な印象もある、少し隙があるようにも見える男でした。そんな少しチャーミングなボンドがわたしは好きでした。(ダニエルクレイグのボンドも勿論好きです!)

上の写真のカフスを見ていただけたら分かりますが、カフスの位置が少しだけ袖口側にあります。これは上着を着ているとき、自然にカフスが見えるように少しだけ手前に穴を付けているのです。この仕様はターンブル&アッサーでは定番のような形です。この時代の映画は、目を凝らせば細かな美意識が巧みに組み込まれていて、観るものを飽きさせません。

アウトドアブームに思うこと

近年、アウトドアブームが続いています。車はSUVが主流になり、キャンプブーム、そしてアパレルもノースフェイスのようなアウトドアブランドが人気です。
タフで軽くて動きやすい、アウトドアファッションの強みは、まさに現代の人たちにとってこの上ない理想的な服なのでしょう。

しかし、007を観ていると、スーツは決して動きづらい洋服ではないということを教えてくれます。
激しいアクションにも耐え抜いてきたスーツという機能服は、ビジネスの場ではなく、普段着としても活躍することができる優秀な洋服です。
ウールという素材は、4つの季節、365日を快適に過ごすことができる素材です。
想像以上の気候の変化にも耐えることができるのは、機能的な化学繊維でもない天然素材です。

昔の人は、私服というものがありませんでした。休日でもスーツを着ていたと聞きます。
その後、繊維産業が盛んになり、アパレルがビジネスとして世界的に飛躍していくなかで、スーツという機能服はどんどん影を潜めて、仕事服へ定着していきました。

わたしは、今を生きる人たちにこそ、休日にスーツ(ジャケットでもいいです)を着るという日を、ぜひ作っていただきたいです。
決して肩肘張らずに、普通に普段着を着ているように着ていただきたい。

ジャケットを着る人生

「BERUNに来るようになってから、私服を着ることがなくなりました」
と言われるお客様は多くいらっしゃいます。
また、

「洋服を選ぶというストレスから解放された」
という方も多いです。

女性服とは異なり、男性服はシンプルです。それを難しくしているのは、他でもなく服飾業界です。
レディースとは異なり、流行を追う必要はありません。自己のスタイルを作っていくことがメンズファッションの理想です。

休日にスーツは少しハードルが高い、という方には、わたしが何度も何度もお勧めしている生地、ツイードにぜひ挑戦していただきたいです。

わたしはツイードこそ、ノースフェイスのようなアウトドア用品と対等に渡り合える理想的な機能服だと思っています。
決して頑張る服ではない、気を衒う服ではない、普通にさらっと着るのが粋な洋服です。

そしてツイードこそ、その人らしさがにじみ出てくる洋服です。
寅さんのようにも、スティーブマックイーンのようにも、ウィンザー公のようにも着ることができます。ぜひ、早いうちから挑戦をして、自分らしい着こなし方を探求していってください。

加齢に順応する

日本人は年を重ねるということにネガティブな印象を植え付けられています。それは年齢に逆行していく方がビジネスになるからだと思います。
ですが、年齢に無理をして逆行していった先に何があるでしょう。歳不相応に装わなくてはいけないことこそ、とても不健康なことだと思うのです。
40,50歳になったのに若作りをしてしまうと、着る者と似合うものがどんどん乖離していきます。むしろ、年相応に年齢を重ねていった方が、はるかに自由度が高いです。
そして男性服は、若いものには似合わない、年を重ねてからでないと似合わない洋服がたくさんあります。
素直に、年を重ねることを愉しみましょう。男性服は20,30代よりも、40,50と年を重ねていったときの方がはるかに愉しいですから。
キャップを斜め被りしたり、Tシャツにパーカーが似合う大人はあまりいませんが、ジャケットは大人は皆似合います。

そう考えると、年を重ねるのもわるくないだろう、と考えていただけるのではないでしょうか。

その人らしく着る

コロナの影響でテーラード離れに拍車がかかっていますが、本質的なものを求める方は増えたように感じます。

こちらのツイードジャケットをお仕立ていただいたA様は、子育て真っ最中。子育て世代の父母は、つい自分の着る洋服は疎かになりがちです。どうせ汚れるからと、手を抜いてしまうのもわかりますが、わたしはそのような方達にこそツイードはお勧めしたいです。
デニムでもよし、シャツも特に気を使わなくてもよし、靴もスニーカーでよし。

ついついファッション誌を見て、着方を参考にしたくなりますが、考えれば考えるほど野暮です。その人らしく、ルールに乗っ取られず着てください。ツイードという大きな器は、どんな着方でも受け入れてくれます。

日本はお洒落は小綺麗にという暗黙のルールがありますが、世間の目に流される必要はありません。
手を抜くのとはわけが違います。肩肘張らずに楽に着るのです。
子供と遊んだ泥汚れも、抱っこしたときに垂れてきたよだれも、ツイードにとっては良い想い出です。

自分の成長と子供の成長を見届ける洋服。手をかけて大切に向き合っていってください。

津久井湖畔とツイード

Kさんは今年のはじめに、初めてBERUNに来られた方。仕事の都合で3ヶ月、津久井という藤野の近くの町で勤務をすることになったと夏前に報告を受けました。
津久井にいる間、わたしの藤野の自宅の完成が間に合えば、ぜひ遊びに来てくださいとお話ししていました。予定通り間に合ったので、完成も早々に自宅に遊びに来ていただきました。

10月の最終日、Kさんは仕事を早々に終わらせてくれて、津久井湖の近くにあるレストランで待ち合わせをし、ランチ兼納品会をいたしました。

まだ若いKさんですが、本人の着る力を信じて、一筋縄ではいかない暴れ馬ツイードをご提案しました。

モスグリーンのツイードに赤のウインドーペーン。
3つボタンの上2つ掛け、チェンジポケット付きのスラントポケットというカントリーなジャケットです。
後ろはセンターベント。ボタンは革のくるみ釦。

このジャケットはカントリーで着てこそ活きます。

一緒にお作りしたトラウザーズはBERUNの秋冬の定番モールスキン。色はダークブラウン。
ツイードとモールスキンは完璧な組み合わせです。

シャツはタッターソール。
靴は現在製作中です。
Kさんの最後の相模原生活の日に、津久井湖畔にてツイードをお渡しできてよかったです。

-Atelier BERUN-
東京神楽坂のビスポークテーラー

東京都神楽坂6-73-15
メゾンドガーデニア301

http://berun.jp/
Facebook

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です