日本人的エスプリ思考

BERUNです。

お茶を習い始めて早2年。まだまだ足を踏み入れたばかりの私ですが、習っていた本当によかったと思います。
そんなお茶の先生から、一冊の本を勧められました。

老舗の流儀 -虎屋とエルメス-


2社とも素晴らしいブランドであり、そして売り上げという安直なところではない部分でトップに居続けることができる精神は、読んでみる価値がありそうだと思い、お借りして読むことにいたしました。

結果、とてもいい本でした。この2つのブランドが、業界の中で特有の世界観を作り続け、トップにいる理由がとても明快にわかりました。

田舎育ちの私にとって、このエルメスも虎屋も、なかなか縁を感じる機会はありませんでした。
また、ものづくりの人間として、クオリティに見合った価格で売られているものに納得するように思考ができているため、いつもそういうものを手にしています。
つまり、地に足がついた、真っ当なものづくりをしている店やブランドを好む気質なのです。

そう考えると、この2つのブランドは今までの私の考え方ではあまり触手が伸びる機会はありませんでした。

しかしこの本を読んでいて、その考え方が変わりました。素晴らしい精神と確固たる理念を持った会社だからこそ、今の時代まで孤軍奮闘でやり続けて来れたのです。

ほとんどのラグジュアリーブランドが3大グループに属しているなか、エルメス、シャネルは未だ独立しています。(※3大グループ=LVMH、PPR、リシュモン)

この2つの会社に共通していることで素晴らしいと感じたこと。
それは、次に作る作品のテーマが決まったら、想像力を膨らませるために、社員や職人を旅行に連れていき、感性を開かせるということを進んでやっているということ。
また、腕のいい職人を他の会社に研修生のように送り出し、別のものづくりの環境に入れる。そして通常業務では使わない脳みその回路を使わせることで、その人のセンスを最大限まで引き出すということを、昔から今もずっとやっているそうです。

実現化はしなかったそうですが、次のテーマが海、と決まったとき、当時のエルメスの社長が、職人の工場を海の側に移そうと思い立ったそうな。そのクレバーな思考力が、今のエルメスというブランドを作っているのでしょう。

これを知った今、この2ブランドの価格の理由が一致しました。
一辺倒なものの見方で見てしまうと、原価から何掛けで販売されていて、その原価よりも大幅に売値が高いと、
「あぁ、これは夢を買っているんだな。夢代だな」
と(リアリストな私は)ついつい思ってしまいます。
そして夢にはコレだけのお金は払えないなぁと思い、なかなか購入をするまでには至らないわけです。

しかし、ものづくりのコストは、ただ単に原価ではかれるものではありません。
言ってしまうと、目には見えない原価、そこにどれだけの付加価値を付けられるかがブランドの仕事なのです。
職人が旅行に行き、感性を磨く、それは素晴らしい投資で、立派な原価です。
それを見事にやっているのがこの2つのブランドだと思います。

彼らのように、一次産業で価値をゼロから想像するブランドは、それ相応の価格になります。自然から感性をもらうというのは、誰にでもできることではないからです。

そしてその一次産業のブランドが作り出した物を、二次産業のブランドが見た目だけを真似して、価格を落として販売しています。

ファストファッションは言ってしまえば、もはや第三次でもなければ四次でもないと思います。

今の時代、コロナで海外に自由に行くことができなくなっています。
そのためか、心なしか、この1、2年、世に出回るもので、心をくすぐられるようなものは見ていないなぁと何となく思います。
世界的にクリエーションする力が落ちているのではないでしょうか。

そんな今だからこそ、過去に本物の経験をしてきた人や企業が、強く生きていけるのだと思います。

いつの時代も、良い経験を重ねることが未来を作っていきます。

自分に正直に生きる

エルメス、虎屋のお二人に共通していること、それは、
嫌なものは嫌だ。着たくないものは着たくない

そのストイックな姿勢が、その人らしさを作るのだと思います。
流行によって踊らされ、借りてきた衣装のような洋服を着ている人たちが大勢いる中、自分と対話をし、自分が本当に良いと思ったものを着続けることに時間と労力をかけた人たちが、エレガンスの世界に行き着くことができるのだと思います。

日本人にとってエレガンスとは

後半に書かれている文で、
「大事にしてほしいと思うのは、エレガンスかどうかということ」
というお話。

この話はこう続きます。
「エレガンスとは、自分と社会との距離をうまく保ちながら、周囲に不快感を与えないこと。
 それは言葉遣いやしぐさはもとより、洋服の着こなしにも表れてくる。
 しかも、自分に個性がないとダメなわけで、さりげなく主張しつつも押し付けない、この微妙な加減の中にエレガンスがあると思ったのです。」

エレガントであることが大切。と言われましても、、エレガントなんて聞き馴染みもないですし、小っ恥ずかしさを感じるような気もします。
それはそうです。我々日本人にとって、エレガントに生きるというのは血の中に宿っていないのですから、仕方のないことです。

ですが、我々が今着ているものは”洋服”です。順番としては、
①洋の文化を重んじた上で、
②日本人としてどう着るか、
というのが理想的な順番なのではないかと思うのです。

エレガントを調べてみると、「上品で優美な様」と出てきます。

西洋の美がエレガントであるなら、日本人にとっての美は、礼節、という言葉はいかがなものでしょうか。

つまり、このテーラードの世界で慎ましく淡々と自分を磨いていくためには、まずは西洋の美の理想形であるエレガンスを突き詰めることが最良の道なのではないかと思うのです。
そして、エレガンスを突き詰めた先に、日本人ならではの礼節が自然に身に付いてくるのだと思います。

それはあらゆる職業を経験したら、勇者になれるドラクエのように、ドラクエの勇者が、日本人にとっての礼節なのだと思います。

エレガンスの流儀

エレガンスなんて話をしていたら、一冊の本を思い出し、本棚から引っ張り出し、数年ぶりに読みました。

「エレガンスの流儀」

タイトルからして恥ずかしさを感じますが、書いている内容はとても面白いです。
著者は2009年に他界した元ザ・フォーク・クルセダーズの加藤和彦氏。氏は今の言葉でいうなら、卓越したウェルドレッサーでした。

日本人で初めて、デニムにタキシードを合わせたのが氏であるという記事を以前どこかで拝見したことがあります。

英国に何度も足を運び、何十着もサヴィルロウで仕立てた経験をしています。現地でのリアルな体験を我々に届けてくれています。

まだバーブアーという言葉が日本にほとんど浸透する前にバーブアーの英国的美学を語る姿勢も愛おしい。
レンジローバーを愛する氏あまり、BMWグループに買収された90年代以降のものづくりにいささか心配している様子を伺えます。(この本は90年代のコラムが文庫化されたもの)

本格的なものづくりをしていた会社が、大きな母体に吸い寄せられる。この流れは資本主義の世界で当たり前に行われていますが、この流れの先に、クオリティがより良くなったというケースは過去に一つもないと思います。

わたしが古いものに惹かれるのはそれが一番の理由で、本来のブランドの意思を感じることができるからです。

秋冬のブレイザースタイル

8月の初めにご注文をいただいた方の洋服が完成してきました。

こちらはダークネイビーのツイルのフランネル、ヴィンテージ生地でお仕立てしたジャケットと、FOX BROTHERSのライトフランネルのトラウザーズです。

ブレイザー(ブレザー)はその人の個性が引き立ちます。
というのも、フツウで特徴がない服なので、その人の人間性や雰囲気がストレートに表れます。
その正直さが、私がブレイザーが大好きな理由です。

フツウであるということは、奇を衒っていないので、自分自身の経験次第で、その洋服の見え方が変化していきます。つまり飽きることがないんですね。

ブレイザーは人生の長い相方として、ぜひ早いうちから揃えておいてほしいです。

1着目はシングルですね。そしてしばらくしたら、ダブルを仕立てるといいでしょう。

モヘア混のベーシックなものもいいですし、フランネルの温かみのあるものもいいです。

このFOXのグレンチェックの雰囲気がとても好きです。一見普通なのですが、程よい厚み、生地の上質さ、柄の出方、バランス全て完璧です。

グレンチェック好きな者としては、いい雰囲気のものがあったらなるべくおさえるようにしておりますが、これは今まで見たグレンチェックの中で一番です。

私にとっての究極の理想は、
「フツウで最高に美しいもの」

意外とあるようでないのです。
最初の話に繋がりますが、それがエレガンスなのでしょう。

裾が少しダブついているのは、製作中に少しお痩せになられたとのことで、フィッティングのとき、ストンと下に落ちてしまいました。ですが、すぐにサイズを詰めるのは勧めません。サイズを詰めることは簡単ですが、出すのには限界があるからです。

急に痩せられると、戻る可能性が十分にありますから、半年〜1年くらいは様子を見ることをお勧めしております。

-Atelier BERUN-
東京神楽坂のビスポークテーラー

東京都神楽坂6-73-15
メゾンドガーデニア301

http://berun.jp/
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