BERUNです。
2月は洋行帰りということもあり、多くの方にお越しいただきました。
昨年に比べて、春夏物を早めの今の時期に検討される方が多く、作り手のわたしとしてはとても嬉しい限りです。
春夏物は3,4月には完成していた方がいいと思います。
なぜなら生地を選ぶ際、まだ先の真夏のことはあまり考えずに、心に余裕をもって探すことができるからです。
今の時期でしたら、まだ合物(春秋物 いわゆるオールシーズン)の生地も提案できるため、選ぶ楽しさも狭まりません。
ぜひ、季節は少し先をいってお考えください。
さて、今回は少しマニアックな生地のお話。
年々わたし自身、生地のよしあしや、物作りのクオリティの見る目が研ぎ澄まされてきているのを感じています。
昨年までは夏物といえば、Martin&Sons(マーチンソン)の3PLYを中心とした質実剛健な英国生地を扱っていました。
これはわたしが昔、英国滞在中あるテーラーに、
「300g/mを下回る生地は生地ではない」
ということを聞いたからです。
(※生地の厚みの1つの基準として、バンチブックには1m辺りの重さを表記しています。夏物であれば220~260g/m、冬生地であれば260~300g/mが、日本の既製服の平均だと思います)
前述したマーチンソンの3PLYは、夏生地ですが450g/mという桁違いな厚みをもっています。と言いましても、一概に重さだけで季節感を判断できないところが生地の面白いところです。
450g/mという肉厚な生地ですが、一本一本の糸が太く、ざっくりと織られているため、通気性がいいのです。
これは100年以上前からある製法で、先人の知恵を感じられるいい生地なのです。
しかし、昨今の日本の真夏はさすがに耐えがたいものがあります。合物としてとらえた方がいいかもしれません。
ちなみに余談ですが、BERUNで所有している秋冬の最高厚生地はこちら、620g/mです。
このレベルの生地で仕立てたスーツを我々は鎧と呼びます笑
このレベルの生地で仕立てたスーツを我々は鎧と呼びます笑
わたしが先日イギリスに行った際、テーラーの工房をのぞかせていただく機会がありました。工房には、夏の納品に合わせて、仮縫い待ちの夏物スーツがびしっと並んでいました。
それらを見てみると、予想外に薄手の生地が多かったのです。
しかしただソフトなだけではなく、どれもしっかりとしたハリがありました。
”薄いがハリがある”。
これが今回の話なのですが、薄くてハリがある夏物の生地はとても高価なのです。
世間的には、厚くてしっかりとした冬生地の方が高いと思われるでしょう。
ですが、薄いという”天井”が設定された上でハイクオリティな生地を作るのは、相当な技術を要し、コストもかかります。
言ってしまえば、ある程度の厚みがあればそれなりにいい生地は作れますが、薄いとそうはいかないのです。
その薄くてハリのある生地を得意としているのが、Holland&Shellyという英国の生地マーチャント。
その夏生地の1つのライン「Snowy River」は、225g/mという薄い生地ですが、とてもしっかりとしたハリがあります。
こちらは英マーチャント「DUGDALE & BROS.」
こちらも200~220g/mという極薄生地ですが、縦糸横糸、共に(※)双糸のため、とても気持ちがいいハリがあります。
(※)糸には、”単糸(たんし)”と”双糸(そうし)”があります。単糸とは一本の糸をそのまま織ったもの、
双糸は一本の糸を2本合わせ、織ったものです。双糸は糸を2本合わせているため生地が丈夫で、主に英国生地に使われます。イタリア生地は一般的に単糸のものが多いですが、縦糸が単糸で、横糸が双糸などのものもあります。
双糸は一本の糸を2本合わせ、織ったものです。双糸は糸を2本合わせているため生地が丈夫で、主に英国生地に使われます。イタリア生地は一般的に単糸のものが多いですが、縦糸が単糸で、横糸が双糸などのものもあります。
双糸で織られているものは、日本の夏ではとてもメリットがあります。
薄い生地の場合、夏場の湿度に負け糸が伸びてしまうことが起きるのですが、双糸でしっかりと撚りを入れて織られた生地は、復元性があるためなりにくいのです。
そのため、終日着用してしわがついたスーツも、一日かけておけば元に戻っています。
マーチンソンのような質実剛健な英国生地も素晴らしく、 魅力的で、働くビジネスマンにはうってつけのクオリティです。10年着続け、表地はぴんぴんなのに裏地が破けた、という逸話を持っているくらいの生地です。
また、薄くてハリのある生地は、着心地がよく、ラグジュアリーな世界へと誘ってくれます。
両極端ですが、着るシーンが異なるためどちらも必要なのだと思います。
その他にも、今季から取り扱いを開始した生地も含め、春夏生地はだいぶ揃ってきました。
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