知識と体験のバランス

BERUNです。

10月に入りました。
いよいよ2016年も残り3ヶ月。早いものです。洋服屋はこれから楽しくなります。

先日、古くからのお付き合いのお客様とランチを兼ねて話していました。気がつくと終わったのが夜の7時。。男2人で延々と7時間も話をしていたのです笑
その方は、もっと洋服のことを知りたいと言っていました。その方の目指す人間像が、そういった知識も持っている人だったからです。それならとその日は、洋服の話をしっかりと伝えさせていただきました。いい仕立ての洋服とはなにか。。
7時間経った後、その方は、「今だから全部の話がすんなりと入る。物も何着も着ているし、感じているからとても分かりやすい」と言っておられました。

わたしは昔から、「あまり知識を詰め込み過ぎると、”洋服オタク”になってしまう可能性があるため、”あまり”洋服の勉強はする必要はありません。ただ、いいものをいいと言える感性を持つことが何より大切です」と、会う方にはいつもお伝えしています。
洋服業界の人でない限り、洋服についてこと細かく知りすぎる必要はないと思うからです。また、それを勉強する時間があれば、自身の生活や仕事に関わることをもっと学んだ方がいいとわたしは思います。

ただもしご自身が、洋服やその他、あらゆる雑学を含めた知識を兼ね備えた人間になりたい。ということでしたら、洋服の”基本のき”程度は覚える必要はあるでしょう。
体験から得た感覚だけでは、周りの人を心の底から納得させられるのはなかなか難しいと思います。

たとえば、Kシャツが出している300双のシャツはなぜ実用的ではないのか。
(〇〇双、この数字が高いほど糸が細くなる。日常的に着る上では、100双前後がいいとされています)
Super130’s〜のものは、着用頻度が少ない人には適しているが、ヘビーユースしたい人には決しておすすめできる生地ではない。
結婚式には、ダブルに折った裾のトラウザーズはあまり選ぶべきではない…等々。

こういった話は、何も分からない人には感情だけで説明することはとても困難であり、ある程度、理屈で説明できなくては納得させることはできません。
なぜ、このような仕様が生まれたのか、そのルーツを知ることで、その着用する場面に適したものなのかどうかが分かるようになります。

それは何も、靴のラスト(木型)の形を覚えるというような細分化されたマニアックな世界ではありません。靴屋でもない限り、そこまで覚える必要はないとわたしは思います。
それよりももっと、知らなくてはいけないことがあります。

なぜ、正統派スタイルを好む人は(※)カッタウェイのシャツを選ばないのか、
なぜ、スーツはクリーニングにあまり出すべきではないのか、

(※)カッタウェイ…襟の上に向かって大きく開いたカジュアルな襟型。

こういった素朴な疑問を、しっかりとシンプルに答えられるだけでいいのです。

しかしこういった知識も、”はじめに”詰め込みすぎてしまうのはあまりオススメできません。
生の声でなく、雑誌などの二次情報から知識を得ることで頭でっかちになってしまい、川上から流れてくる純粋な話が入ってきづらくなってしまうことがあるからです。

物を購入する、仕立てるといった「体験」をせずに、知識を詰め込むことに没頭してしまうのはおさえた方がいいでしょう。また、物を購入するということも、ネットで済ませてしまっていては、せっかくの学ぶべき機会を失ってしまいます。そこには物とお金のやり取りしかありません。しっかりとプロフェッショナルの店員と話す時間を大切にし、その人の思想を聞いた上で物を購う。それが何よりの体験であり、価値だと思います。

理想の割合は、体験7:知識3くらいでしょうか。(わたしは8:2くらいでもいいと思います)

また、せっかくいい物を持っていても、その良さを感じられず、伝えられなくても勿体ないです。9:1だとアンバランスかもしれません。

反対に、知識8:体験2、こういったバランスは少しアブナイと思った方がいいかもしれません。(知識のウェイトの方が高い方が、日本には多いように見受けられます)

知識が多いともし感じられるようでしたら、それを越える程の体験をした方がいいと思います。体験はもちろん、お金もかかります。失敗をすることもあります。ですが、そこでしか感じられないことを感じることができ、本では得られないリアルで突飛な情報が手に入るかもしれません。

しっかりと体験をした上で、そこから出て来た素朴な疑問や感情が、人の心を動かし、納得させるのです。

 

日本では「Order Made(オーダーメイド)」という言葉が世間一般では精通しておりますが、英国では「BESPOKE(ビスポーク)」と言います。
この2つの言葉は一見同義語のように扱われておりますが、実際には根本的な考え方が違います。

オーダーメイドというのは、お客様が店側に”オーダー”をして、希望の形や色などを、お客様側が主体となり決めていくものです。
対してビスポークは、プロフェッショナルである店側が、こういったものがあなたには似合いますよ。と、店側がお客様としっかりと話をしながら提案していくスタイルのことを言います。女性の「オートクチュール」と同じ考え方なのです。

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昔、オートクチュールが全盛だった頃、お客様である貴婦人はアトリエに赴き、職人に「いついつどこで、どのようなパーティがあるから、それに合わせた服を作ってほしい」とだけ言います。

誰よりも職人に委ねる方が、その時代に倣った、正しく美しい洋服が出来上がることを知っていたからです。

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もしご自身の理想がすべて頭の中にあり、それをそのまま具現化したいということでしたら、オーダーメイドをするのがいいと思います。そのためにはある程度、伝えるための知識が必要です。
そうではなく、信頼できるプロを探し、その人に自分の似合うものをビスポークしてもらう、というスタイルをお望みでしたら、そこまで知識を詰め込む必要はないでしょう。必要なのは、その人が信頼のできる人なのかを見極める感覚だと思います。

その後、なぜこういった仕様にしたのか、なぜこの生地を選んだのか、しっかりと聞いてみるといいでしょう。それが体験を経てから得る純度の高い知識ですので、不必要な情報は一切なく、すんなりと頭に入るはずです。

 


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