楽園を目指して

BERUNです。

一昨日から、ようやく秋を感じる風になりました。
リネンシャツからフランネルシャツへ。
ステンレスブレスの腕時計から革ベルトへ。
やはりわたしは革ベルトの時計の薄さがいい。そう感じます。

最近、とても古い壁掛け時計を購入しました。

アメリカのIngraham(イングラハム)という時計メーカーのものです。西荻窪のアンティークショップにて。
年代は1880~1884年のもの。これだけはっきりと年代がわかっているのは、すべての部品が当時のものそのままで残っていたからだそうです。通称「だるま時計」と言われています。
当時はガラスを真っ直ぐ作る技術がなかったため、光が当たったとき、盤面がゆがんで見えます。とても幻想的で美しいです。
店内には他にも、ハプスブルク一族が使っていたオーストリアのものや、ヨーロッパの時計も色々ありましたが、現代の建築には、どうも格好良すぎるのでやめました。
価格だけでいうと決して高価なものではありませんが、とても重いものを譲り受けた気持ちです。
振り子の鈍い音が部屋全体に響き渡る。家で流していたBGMが必要なくなりました。

当時の壁掛け時計といえば、この時計を売れば家が建つというくらい、高価なものだったそうです。戦火で家が焼かれるときは、時計を抱えて逃げていたというくらいのものでした。
当時でいえば、王族、貴族階級の人しか使うことができなかったものを、現代のわたしたちは誰でも手にすることができるようになっています。

最近読んだ本で、面白い項目がありましたので共有します。
遠い昔、中国で発祥したと言われているアイスクリームは、米や果物をドロドロに練ったものを、高山の万年雪で凍らせたものだが始まりだったそうです。当時はとても高価なもので、皇帝や貴族でさえもめったに食べることができなかったもの。日本でも昔は、富士山の頂上近くにある雪を持ってきて、地下深く掘った場所に保管しておくが、夏になると何十分の一になる。そのわずかに残った氷に甘い葛の汁をかけ、この世の栄華を味わっていたそうです。
アイスクリーム一杯を食べるためには、一般庶民の何年分もの年収が必要であったという時代。

そう考えると、今はいつでも冷たいアイスを100円で食べることができ、しかも寒い冬に、部屋を暖めてアイスを食べるという、昔の人では想像すらできなかったような世界にわたしたちはいます。
しかしいつの時代も、人はもっと良い未来があるはずだ、もっと良い人生があるはずだ、と、現代に甘んじることなく、発展を続けてきました。その原動力のおかげで今の私たちの生活があるので、それは素晴らしいことだと思います。

昔は手が届かなかったものを、今はいつでも、どこでも、気軽に手に入れることができるようになりました。
1900年代初頭は、鉄道で旅行に出ることは庶民の憧れでした。
(当時の想いを感じさせてくれる番組、NHKの「美の壺、(人生を共にする旅行鞄)」がとても面白かったです。再放送もたまにやっているので、ぜひご覧になってみてください。)
今は海外にも、誰でも安く行ける時代です。

わたしが提案しているビスポークスーツも、昔は貴族階級の人しか着ることができませんでした。映画を観てみると顕著です。例えばオードリーヘップバーンマイフェアレディは、まさしく上流階級と下層階級の男女の物語です。

第一次世界大戦が終わり、人々が人生を愉しむことができるようになると、ビスポークスーツは一般の人たちも着用するようになります。
そして日本では、戦後の発展とともに、多くの市民が着るようになりました。

わたしは今生きているこの時代は、過去を遡って見渡してみると(タイムマシーンはありませんが、、笑)、とても自由で、なんでもできる豊かな時代だと思います。
誰でもビスポークスーツを着用でき、美味しい食事を取ることができ、美しい絵画を見ることができる。こんな現代は、過去にはなかったはずです。

この過去の人たちが望んでも叶えられなかった現代に生きている我々。もっと今の時代を愉しむこと。それが過去の人たちにできる最大のお礼だと思いました。

スーツが気兼ねなく着られる季節

<H Lesser & Sons.(Vintage)>

25度を下回ると、ようやく上着を不快感なく、着られる気候になります。
H Lesser & Sons.(Hレッサー&サンズ)のヴィンテージ生地を使用したスリーピーススーツが完成しました。一見すると無地、しかしよく見ると、うっすらとグレンチェックの柄になっています。この控えめなところに品を感じます。
カシミアが1%ブレンドされた生地。生地の耳に書いていた「(※)Super 90’s」という表記がなんとも時代を感じました。当時は90でも表記したくなるくらい、自慢のクオリティだったのでしょう。回り回って、結局のところSuper100’s以下が日常で着る上ではいいよね、と今の時代は立ち戻っています。いいことです。

(※)Super表記については、The Bookの「Super ○○’sとは」というページにて説明しております。

<FOX BROTHERS Navy Flannel>

FOX BROTHERS(フォックスブラザーズ)の260gmsのライトフランネル。こちらでスリーピーススーツをお仕立てしました。小柄な男性に許された特権、1つボタン。大柄な方が着てはいけないわけではないのですが、前丈の長いジャケットを1つボタンにすると、どうも”間延び”してしまうとわたしは思います。
スーツはルール、方程式になぞらえた中に美が宿ります。その中で自分らしさを出すことが、その人の経験であり、センスです。

8月に入った秋冬物の生地も、おかげさまでたくさんの方に見ていただいています。わたしがいいと思い、買い付けたものを選んでいただくのはとても嬉しいのですが、一方では愛でていた生地が行ってしまう寂しさもあります。笑 なので、たまには久しぶりに顔を合わせたくなるものです。経年変化、シミ、シワ、全てOKです。
身体に密着しているスーツは、装飾品という役割よりも、男としてはギアの感覚が高いです。これが鞄や靴、帽子になると、身体の中心から離れるため、装飾品としてのウェイトがより高くなります。

こちらもFOX BROTHERSの生地を使ったものです。400gmsというヘビーなフランネルですが、FOX特有のソフトな仕上げのため、そこまでのゴワっとした厚みは感じません。ここまでのヘビーウェイトなフランネルを、ここまで上品に仕上げるFOXはさすがの一言です。
いいグレンチェックだけど、少しアクセントが効いている柄だし、、でもトラウザーズ分だけでもほしい!と思い、トラウザーズ1本分の長さだけオーダーしたものです。
こういうものに敏感に気づいて選んでくださるのがとても嬉しい。黄色や赤、緑など、様々な色が入っているこちらのグレンチェック。まさしく唯一無二の柄です。
アウトの2タックプリーツ。ベルトレスだけれど、サイドアジャスターはなし。内側にはサスペンダー釦を入れています。今回はK様たっての要望で、帯の持ち出し部分を長くしました。いつも作っているものよりも倍の長さです。最初は難色を示したわたしでしたが笑、仕上がってみると意外とわるくないものです。その方だから似合うもの、というのを手がけていくことが何よりの楽しみです。
お仕事でジャケットを着ることがないというK様。冬はニットやコートにこちらのトラウザーズを合わせるそうです。

同じ日にKeiichiroの鞄も納品しました。細身のK様に合わせて、ぎりぎりまでサイズを小さくしたクラッチバッグ。わたしも持たせてもらいましたが、わたしの体格でもすんなり受け入れてもらいました。
気持ちが前向きになる、外に出かけたくなる物を贖うことは、浪費ではないでしょう。一瞬一瞬の楽しさ、快楽ではなく、人生を豊かにするための買い物であれば、たくさんした方が学びにもなります。

わたしの仕事は医者ではありません。
この薬を飲んでください、という役割でもなければ、一方通行のお客様が作りたいものをそのまま作るオーダーメイドでもありません。
双方が話し合い、お互いに納得のいくものを完成させていくこと、それがBESPOKEです。

 


Atelier BERUN

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