BERUNです。
10月末だというのに、まだ20度以上の日が続いています。
室内、電車の中が暖かい日本では、冬でもコートが必要ないという方もいるでしょう。
改めて、コートとはなんのためにあるのかを、考えてみるのもいいかもしれません。
わたしのお客様では、代謝が良く、真冬でもコートが必要ないという方もいらっしゃいます。ですが、そういう方でも、冬はコートを着ています。
なぜなら、コートは格好いいからです。笑
極論、季節や気候を超越するくらい、自分が着たいと思えるものがワードローブにあればいいのだと思います。
身の回りには最低限、必要なものだけで十分という思考に至ってしまうと、無機質でなんともつまらない世界になってしまうでしょう。
余白を愉しむ。嗜好を極める。そこに人生の愉しさがあると思います。
昔読んだ本で、落合正勝氏が本で書いていた一節がとても面白く、その話だけ記憶に残っています。
「暖房器具も優れてきており、衣類に暖かさを求める時代ではなくなってきている今の時代に、なぜカシミアコートを着るのか。カシミアコートは、タクシーに乗り、タクシーを降り、料亭に入り、女将にコートを渡す。その10歩のためにある。」
そのようなことを書いていました。(お好きな方、少し間違えていたらごめんなさい)
この一見道楽ともとれるような、現実離れしている話に、わたしは男の美学があると思います。
これはたまたまカシミアコートという高額な洋服の話でありましたが、今の時代は、このような話を冷たく見過ごし、何も考えずにいける安易な方へと流れていっています。
このまま放っておくと、季節や性別を超えて、近い将来、みな同じ洋服を着て過ごす時代がやってくるでしょう。
車のデザインを見ていても顕著に感じます。昔は各ブランドの個性が突き刺さるようなものばかりでしたが、今はロゴと車種名を外したら、世界各国どこの車か検討がつかないものばかりになってしまっています。
規制に規制を重ね、機能性、利便性を突き詰めた結果が今の自動車業界です。服飾業界はまだ個人個人の服装の自由が認められているので、もっとみんな思い思いの服を楽しんでほしいとわたしは思います。
自分のためだけの洋服を揃える
わたしの大好きなツイードジャケットの季節がきました。こちらは先日完成したカントリージャケット。
ボタンの色がばっちり合いました。抹茶のような、どことなく和を感じる色合いです。
生地を見ただけでは難しいと思える柄でも、その方を見て、これだと思えば迷わずお勧めします。
裏地はコットン/キュプラ。同系色のモスグリーンを合わせました。
お客様の雰囲気にもとてもマッチしていて、すでに何十年と着古しているかのような安心感があります。
BERUNオリジナルのグリーンのウールタイを合わせました。
この手の洋服は、「古着ですか?」なんて言ってもらえると、とても嬉しいですね。
着倒していき、肘が破れ、襟元が擦り切れてきたら、「ようやくここまで来たね!」と、ツイードの神様からお褒めの言葉をいただくでしょう。
今回こちらの仕様は、チェンジポケットのスラント(斜めポケット)にしています。特にお客様の要望があったわけではなく、わたしが決めました。BERUNに来られた方でしたらお分かりかと思いますが、生地を決めたら、あまり仕様についての打ち合わせはしません。(ご希望がある場合はしっかりとお話しさせていただいています)
よく、「どうやってデザインやサイズ感とかを決めているんですか?」と聞かれることがあります。経験ももちろんありますが、最終的には直感を頼りにしています。
洋服は店内で着るものではなく、その方が人生というフィールドで着るものです。その周りの方々から、最高の賛美をもらってほしい。そのためにはどんな雰囲気で仕立てようか、と考えます。何年後に似合う洋服にしよう。そこまで考え始めると、もう方程式では表せません。
ぜひ、冬の旅先で着てほしいです。カントリージャケットはやはり地方の風が合います。
冬の相棒”モールスキン”
セットアップで合わせたトラウザーズは英Brisbane mossのモールスキン。コットン100%でありながらこの起毛感。冬の大定番です。わたしは冬のデニムと謳っております。そのくらい使いやすく、暖かく、ジャケットにもカジュアルにも合わせられる、オールマイティな素材です。
モールスキン=モグラの肌。という意味です。アップでご覧になっていただけると、表面のふわっとした触感がお分かりいただけるかと思います。コットンのため、退色もあります。5,10年履いたモールスキンは、いい感じに白っぽくアタリが出てきます。
これを履いて、上はローゲージニット。ダッフルコートなんていうベタベタなスタイルもいいではないでしょうか。選択肢が多くなる冬だからこそ、色々と着分けできる洋服が活躍します。
王道のフィッティング
BERUNのトラウザーズのフィッティングは特徴的です。(トラウザーズに限らず、すべての洋服のフィッティングが特徴的ではありますが)
ブランドは、ブランド毎に色を出さなければいけません。例えばコムデギャルソンであれば、一目で見て、ギャルソンだとわかるような洋服でなくてはいけません。それは決してわるい意味ではなく、そのようなスタイルがあるため、ブランドは世の中に数多く存在しており、ファッションは多様性で楽しくあれます。
世の中のブランドが変化球を投げ続けているため、ビスポークはど真ん中ストレートを投げ続けることができます。手を変え品を変える必要はなく、味も足す必要もありません。その方にだけ100%合うものを作るということが、ビスポークの考え方です。
100人中80人に似合う洋服を作る必要がないのです。これは作り手としてはとてもやりがいのある仕事です。時代のニーズを考える必要はなく、100人中1人の人のためにだけ、1着の洋服を作る。これほど豊かで贅沢な発想はないでしょう。
そのため、トラウザーズも”絶妙な”サイジングです。モールスキンの生地を使い、カジュアルブランドであれば、もう少し広くしたいだろう、イタリアクラシコのブランドであれば、もっと細く短く作りたいだろう、と思えるところを、ただ身体に沿うラインでシンプルに作る。
そのシンプルな洋服を着ている人が、世の中にはほとんどいません。
結果的に、ど真ん中ストレートはがら空きです。
素材と器が真っ当なものであれば、余計な小細工は必要ありません。
ただ、その方に合うものを作ることができることが、BESPOKEの最大の長所だとわたしは思います。
土日の神楽坂はにぎやかです。
その中で、店内では静かに服飾談議に男たちが華を咲かせています。
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