サマースーツが始まる

BERUNです。

三密を避ければ、必然的に意識は外へ向きますね。少しの晴れ間をぬって屋外へと足を伸ばします。まだ虫も少なく、蒸しもそこまで天井に達していない今の時期は、積極的に外へ行きたいものです。

今年になり、よりビジネススーツからプライベートスーツを着る方が増えたような気がします。わたしとしてはとても嬉しいことで、
「仕事では着る機会が減ったからこそ、自由なスーツスタイルを楽しみたい」
という方が今夏はとても多くいらっしゃいました。

White Beige Fresco LITE

N様にお仕立てさせていただいたこちらは、Hardy Minnis社のフレスコライトの生地を使用してお仕立てさせていただきました。
フレスコライトは、強靭なフレスコの意思を受け継ぎ、タッチは軽く仕上げている生地です。
芯がありながらも柔らかな生地のため、ドレープ感を楽しめます。

色は白に見えますが、うっすらと黄身がかっているため、奇を衒うようなスーツではありません。
個人的に真っ白のスーツというのは、一体日本人で着こなせる人は果たしてどれだけいるのだろうか、というくらい崇高なポジションです。
ですが、白に少しグレー系やベージュ系の色味が入るだけで、ぐっと親しみやすくなります。

大きな体格をお持ちのN様。膨張色のホワイトベージュの見せ方は一工夫必要です。
絞るところは絞り、出すところは出す。そうやってメリハリをつけることで、全体的にぼやけた印象にはなりません。
夏らしく貝ボタンにするという選択もありますが、すでに生地が主役として大活躍していますので、その他のキャストは裏方に回ってもらいました。
ボタンはベージュの水牛ボタン。

夏は上着を脱いで、ウエストコートだけという着こなしも素敵でしょう。

わたしとしては、こういった着方もぜひやっていただきたいです。
ブレイシーズはリネン素材を使ったものですので、リネンシャツとの相性がバッチリです。
帽子はパナマをかぶっていただきたいですね!

ウエストコートを外し、ノータイでツーピースというスタイルも、このくらい雰囲気のあるスーツでしたら大丈夫です。
初めのうちはご自身が見慣れる必要がありますので、この着方でしたら割と気にせず着こなせるかと思います。そのうち自然に、スリーピースのスタイルも難なく着ているようになります。

そう考えると、このスーツ1着で何通りもの着方ができますね。
飽きずに、その日の気分、天候、会う人に合わせて着方を変えていけますので、夏を何倍も楽しめるようになると思います。

ジャケットの上着もですが、トラウザーズのラインも後ろが要です。
何度も書いていますが、ヒップから膝裏、そして裾へと真っ直ぐ落ちていくラインはこのくらいゆとりがあるからこそ出ます。理想的で美しいラインです。

Vintage TONIK

わたしが見つけるたびに興奮してしまう生地がこちら、DormeuilのヴィンテージTONIKです。
時代を感じる柄物は見かけるのですが、無地で、今の時代でも問題なく着られる生地となると、なかなか見つかりません。あったとしても生地の長さが短かったりと、こういう一点ものは運命なのです。

こちらの生地は、もしお客様が選ばなければわたしが行こう!!と思っていた生地でしたが、ありがたいことに見初められましたので、お仕立てすることにいたしました。
わたしが作ってもクローゼットの中で眠ってしまう時間が長いので、やはりたくさん着ていただけるお客様にお作りするのが、生地も含めて皆にとっていいのです。

トニックの特出すべきはこの光沢。モヘアが40%入っているので鈍い光沢が、光に照らされると出てきます。ですがこの光沢感も生地の色柄によって変わるものです。このベージュは特に美しい光沢が出る色でした。

馴染むまでにまだ相当な時間が必要です。ヘビーに着倒して、何年もかかってようやく自分のものになっていきます。

Natural Indigo Project

以前からお話ししていた、天然藍で染め上げた生地が仕上がったという一報をいただいたので、受け取りに行きました。
築150年の燻銀な純和風建築に住われ、そこで天然藍の染めを行っている石井さん。

真っ白なスペンスブライソンのアイリッシュリネンをお渡しして、色味はこんな感じがいいです、といいサンプルの生地の色味を見せて希望を伝えていたところ、

「この色味は化学藍でも全然出せちゃうんですよ。天然藍でしたら、もっと深い色にした方が格好いいです。限りなく黒に近いくらい濃い色にしたら本当に格好いいですよ」

とアドバイスをいただきました。
素人の見解からすると、そんなに暗くしてしまったら、藍染かどうかがわからなくなってしまうのではないか?と一瞬不安でしたが、自分のスタンスはプロに任せるという人生観なので、ではそれでお願いします!とお願いしました。(プロの熱量を下げるのは愚の骨頂ですから)

藍が生きている壺に生地を漬け込み、出して絞る。
それを何度も繰り返す作業。理想の暗さにするのだったら、13〜15回はそれをやらないといけないでしょう、とのことでした。

出来上がってきた生地は、予想を遥かに超えて素晴らしく美しい仕上がりでした!
魔力を持っているような色。底から湧き上がる深いインディゴネイビーです。

結果、生地が相当地厚だったこともあり、出して絞るという工程は計20回行ったそうです。
藍も生きているため、1日に染め上げることができる量は決まっているとのことで、4日に分けてこの工程を繰り返してくださったとのこと。想像するだけで頭が上がらない肉体労働です。

今日本では藍を栽培して販売までしている人は徳島に5人、兵庫に1人と合わせて6人しかいないそうです。
なので数に限りがあるため、大手メーカーが使うことは不可能。勘の鋭い方ならこの説明で、世に出回るインディゴのカラクリを理解していただけたかと思います。

この度お願いした石井さんは、藍の販売はしていませんが、藤野で畑を借り、藍を栽培し、刈り取りから乾燥、発酵、という過程を全てお一人でやられています。
0から10をやっている方には本当に尊敬の念しかありません。

今回の仕上がりを見て確信できました。
BERUNでも、お好きな方向けに”裏”メニューで、Natural Indigoで染め上げた生地で洋服を仕立てるというのを始めようと思います。
素材は綿か麻、ジャケットでも、スラックスでも、シャツでも、はたまたわたしのようにセットアップでも大丈夫です。

夏であれば、藍染めリネンのジャケットに雪駄なんていうスタイルも粋じゃあありませんか!
わたしもこれで上下のセットアップを仕立てますが、カチッと着るイメージは持っていません。白のポロシャツに足元はスペルガ、なんていうリラックスしたセットアップのイメージです。

天然藍で染めることで、燃えにくくなるとのことです。昔の火消しと呼ばれる今の消防隊員の人たちが、消化活動に入る前に藍の法被を着ているのを何かでみたことがあります。
また、これは有名は話ですが、生地が丈夫になります。何度も染め上げていくことで、藍が表面に重なっていくそうで、それが生地の厚みになり、染める前よりふっくらとコシがつくそうです。

あとは防菌・防虫効果と、いい面をあげればキリがないですね。

藍が発酵している最中の壺の中を見せていただきました。自然に発酵活動が行われているだけで、50度まで熱が上がるそうです。発酵中の藍はとても熱く、鼻をつんざく匂いがしました。

昔から、オリジナルの生地をやりたいという想いがありましたが、このような角度から提案することができてとても嬉しいです。

冬はすでに世界には素晴らしすぎる生地がたくさんありますが、日本の夏のことを考えると、まだまだ考えることはできそうです。

右が元々染める前のアイリッシュリネン。
左が天然藍で染め上げたアイリッシュリネン。
全く別物に変貌を遂げました。
まるでスペンスブライソンが日本文化に惚れて、帰化したようですね。

冬は英国。
春秋は英国、たまにイタリア。
夏はイタリア、時に日本。
気候のことを考えると、わたしの今の納得解はこの選択です。

-Atelier BERUN-
東京神楽坂のビスポークテーラー

東京都神楽坂6-73-15
メゾンドガーデニア301

http://berun.jp/
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