BERUNです。
11月の中頃になるというのに、この日中の暖かさはなんなんでしょう。
思いつく限り、これだけ過ごしやすい時期が続く秋の終わりはなかったのではないでしょうか。
「二十四節気(にじゅうしせっき)」によると、11月7日頃は立冬ですので、昔の日本の感覚でいえば、もう冬が始まっているのですね。
先日、お茶の稽古の時に話に出た”二十四節気”。季節を4つではなく、より細かく24に分けたものです。
これを見ると、日本は改めて、四季豊かで、季節の移り変わりを大切にしていた民族なんだなと感じます。
オールシーズン、通年着られる。というような洋服がいかに日本人的ではないか、考えさせられます。
戦後日本人が忘れ去られてしまった”ナニカ”を思い出すためにも、装いを通じて、四季を楽しみたいものです。
大変ありがたいことに、最近全国からお客様に来ていただいております。
京都から、青森から、北九州から。
先日は、午前中は宮城から、お昼は高知県の四万十市から来られたり、大変ありがたいと共に、恐縮するばかりです。
後悔されぬよう、今まで以上に頑張らなくてはいけません。
手がかかった洋服
神楽坂時代からのお客様、H様。
物持ちが良い方のまさに代表のようなH様は、いつもお持ちの洋服で、これは云十年前の〜という話を聞かせてくださいます。
こちらの2着の洋服。左のグレーヘリンボーンのツイードジャケットは1989年にオーダーされたもの。
1989年10月。。私はまだ1歳7ヶ月です。笑
その頃からずっと使い続けられるもの。それがツイード。
そして右のキャメルカラーのチェスターフィールドコートは、そのお父様が40年以上前に仕立てられたものだそうです。
グレーのヘリンボーン柄は永遠に不滅だと私が話しているのが、これで少しは証明されたのではないでしょうか。
この2着とも、私がいつも皆様にお勧めしているものです。
言ってしまえば、ジャケットはグレーヘリンボーンのツイード。コートはキャメルのチェスターフィールドコート。
このセットがあれば、男性の冬のコーディネートは完成してしまうと言っても過言ではありません。
しかし、それで終われるはずがないのが、洋服の楽しいところなのですが。。笑
特筆すべきは隣にありますキャメルのコート。
良い仕立てかどうかを判断する箇所はいくつかありますが、それは大抵裏を見るとわかります。
この襟裏もまさに、手がかかっているかどうかが一目瞭然でわかる箇所です。
私のような仕事をしておりますと、色々と面白いものを見せていただくことが多いです。
その方の家系で大切にされていたものを譲ってもらったため、見てみてほしい。
なかなか良いものもあれば、うん、まぁ、時代を感じるものですね。というものもあり。
ですが、大切な人から譲ってもらったもの以上のブランドはありませんので、それはぜひ大切に使っていただきたいです。
このコートの襟裏を見たとき、いい時代のいい洋服だっ!!と感動しました。
40年以上前に30万円程で購入されたと聞きまして、その時代にしては大変高価なものだったと思いますが、それに見合う手のかかりようです。
このハ刺しの美しさ。
これは昔、職人は時給なんてあってないようなものだった。手をいくらでもかけられた時代の産物です。
規模は違えど、今この時代に、西洋にある大聖堂を一から建ててください。と言っているようなものです。
昔は住み込み、食事は出す。だからこの壁一面に絵を描いてくれ。というのが許された時代。
今は一人一人の職人の価値が上がりすぎてしまい、一つのものにじっくり時間をかけるということが難しくなりました。
そのため、歴史に残るようなものが現れづらくなったのだと思います。
まぁ、話は少し大袈裟になってしまいましたが、昔のものは良かった、というのはこの服飾の世界ではまさにそうですね。と断言できるのです。
一つ一つのものに時間と情熱をかけることができた時代と、早く安く大量にものを作らないといけない時代。
物の価値が全く違うのは明確ですね。
そんなH様に、ネイビーのジャケットをお仕立ていたしました。
W Billのラムラナ。もう手に入らないでしょう。とてもいい生地です。
タフなツイードはもうお持ちなので、ラムウール・アンゴラ・カシミヤという極上の触り心地のジャケットをぜひご堪能ください。
グレーヘリンボーンツイード
K様にお仕立てしたのは、先ほどお話ししておりました、大定番グレーヘリンボーンツイードジャケットです。
おろしたてのツイードは、生地のハリがすごいですね。
背中が綺麗な砂時計型になっております。
永遠の定番をいつ手に入れるか。早い方がより楽しめるでしょう。
人と服との距離
S様にお仕立てしたのは、ドーメル社のグレー無地の生地を使ったスリーピーススーツ。
若干22歳のS様ですが、ネイビーでフレッシュな印象ではなく、落ち着いた印象を与えるダークグレーを選びました。
お父様から譲っていただいたネクタイが渋いです。
最近の洋服作りは、洋服が人に寄り添うことが理想とされています。
しわがなく、身体にピッタリと沿っていること。
それが良い洋服と言われています。
それは大正解なのですが、私としましては、もう少し洋服と人との距離があってもいいのではないかと思うのです。
昔の人のスーツは、動けばシワが入るし、その自然な様がドレープ感を生み、独特のエレガンスを醸し出していました。
ジャストサイズで完璧な洋服というより、少し未完成さがあるもの。そういう人間らしさを感じるものに魅力を感じます。
感覚的に言うなれば、洋服が人よりも前に出ていて、少し先を歩いている感覚、そのような洋服と共に過ごすことが、大人になる愉しみを見出してくれるのではないかと思うのです。
今の時代は、今がよければいい、今・今・今と、なう楽しいが良いこととされています。
ですが、もっと広い視野で見たとき、10年後にようやく仲良くなれた洋服がいて、それまでの10年間もなんだかんだ楽しかったし、これからの10、20年はもっと楽しくなる。そういう洋服といることもとても素敵だと思うのです。
身体にピタッと沿うことももちろん大事ですが、シワのない洋服というのも、昨今の無垢な美意識に近いものを感じますし、もっと人間的でいいのではないかと思うのです。
動いた時に自然に出るしわ。そのしわを美しいと思える美意識が、自然を慈しむことができるセンスなのだと思います。
完全さが求められている今。昔は、クラシックカーや、昔の映画もそうですが、どこか不完全で、手をかける人間がいてはじめて成立するというのが当然でした。
そこに愛着が湧いていきます。
それを愛していく人生の方が、私はよっぽど豊かだと思うのです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
↓インスタグラム、日々更新しております。
ぜひフォローお願いいたします!
-Atelier BERUN-
東京都港区元赤坂のビスポークテーラー
洋装士:竹内大途