所有できない喜び

BERUNです。

先日、我が家に玄関からではない来客がありました。

「あっ!!!」
網戸を開けていたら迷い込んできました。


気がつけば毎年必ず1羽は入ってきます。笑

なかなか出口を見つけられず、30分ほど室内を思う存分飛び回った後、出て行きました。
鳥や虫、植物、あらゆる生命がむくむくと活発に動き出す今。
都内ではあまり感じられない、土のエネルギーを感じます。

BERUNオリジナルシューズの構想

昨年の秋からカタツムリ程度のスピードで動いていた、オリジナルシューズの作成。
出来合いのものではなく、完全にゼロの木型から起こして作成しています。

私はもともとカジュアル畑からテーラードの世界に来ていますので、私が得意なスタイルは何かと聞かれますと、「フォーマルとカジュアルの間の絶妙なラインです」と答えます。

決していいとこの生まれではないので、”ねばならぬ”フォーマルの世界ではなく、洋服を手放しで楽しむ人生を送ってきました。
そして手放しで楽しみ続けていた延長線で、テーラードに出会い、今も手放しでドレスもカジュアルも楽しませてもらっているわけです。

なので、「なんでこういうアイテムがないんだろう。」と日々素朴な疑問が湧き起こることはしばしば。

その結果、(今となっては当たり前のアイテムになりましたが)デニムトラウザーズであったり、ツイード生地で仕立てるチェスターフィールドコートであったりを作ってきました。

そんな中、「見た目は革靴で、履き心地はスニーカーのような靴で、使い勝手のいいものが欲しいなぁ」と思っていました。

なぜかドレスシューズメーカーも、スニーカーとなると途端に形がスニーカーになってしまいます。
そこを我慢して、抑えて抑えて、革靴寄りでカジュアルな雰囲気を出すという物作りが、意外とないのです。
まぁ、なぜないのかと言えば、売れないからでしょう。笑

ですが、私は1万人に売る必要はありません。
「こういうのいいですね!!」
と賛同してくださる方がほんの少しでいいのです。小規模商店ならではの面白さはそこにあると思います。

そんなことで、木型から製作が始まり、半年以上が経ち、ようやく先日第一サンプルが上がってきました。

ホールカットの内羽根。まだまだ改良して行きます。
そして革選びの話になり、インポートの革事情について話していました。
これは今は革業界全体に言える危機的状況なのですが、いい革が世界的に全くないのです。

これは世界の流れが、動物愛護であったり、肉食から菜食主義の傾向が強くなったり、革を加工する場の締め付けが厳しくなり、どんどん廃業に追い込まれていったりと、革製品を作ることに対する風向きが変わってきているという色々な原因があります。

世界で手に入らないとなると、東の果ての国日本にまわってくるはずがありません。
S級、A級はヨーロッパのメゾンブランド。B級はヨーロッパの店。そして我々が”順当なルート”で手に入れられるものはC級以下になってしまうのです。これは仕方のないことです。

そのため、今は日本でも革作りを本格的に推し進めていこうという流れがあります。世界がダメなら日本でやる!
いい流れですよね。

その話の流れで、革の染色から加工までを行っている工場があるので、よかったら一緒に行きませんか?となり、先日行ってまいりました。

一般的に靴で使われる革は牛、豚ですが、良質な革自体が今、少なくなってきているのです。
そこで、革業界が今目を向けているのが、それ以外の革たち。

ここでは、ゴート(山羊)、シープ(羊)、バッファローなど、たくさんの革の種類がありました。

そして、顔料でべったり均一に染め上げる今までのやり方ではなく、こちらで行っているのは”水染め”というやり方。
色のついた水に漬けて革を染めていくというスタイル。これによって色の染まり方はいい意味で不均一で、自然な風合いになります。

このやり方がなぜ今まで一般的ではなかったのかと言いますと、昭和と平成は百貨店一強の時代でした。
百貨店に来る無数のお客さまを相手するためには、製品一つ一つにムラがあっては困るのです。
同じカバンでも3、4個並べると全部違う。ということでは、百貨店のビジネスは成り立ちません。
それによって、今までは顔料で色落ちしない、均一の染まりがある革製品を作っていました。

しかし今はもうそういう時代ではありません。時代が個人店に戻ってきています。
「革ってこういうものですよね。この方が風合いがあっていいじゃないですか」
と、本物を見る人たちが増えてきたおかげで、物にそれぞれのストーリーを見出せるようになってきました。

物作りをしている人たちが、本当に作りたい物を作れるといういい時代になってきたと私は思います。

シュリンクレザーが大好きな私は、こういう革は大好きです。こちらはゴートレザー。

こちらはバッファロー。裏側も綺麗に処理してあるため、裏地を貼らずに使えます。

面白いことに、これは全てサンプルであって、実際は、ここから厚みをどうするか、染めの色はどのようなイメージにするか、シュリンクをどのくらいかけるのか、という革の仕上がりを全てオーダーすることができるのです。

ヨーロッパでは、デザイナーがタンナーに足を運び、ゼロから物作りの要望を伝えるというやり方が昔から当たり前だそうです。

しかし日本は流通に無駄が多いです。商社や問屋が関わることで、ものづくりの純度がどうしても下がっていってしまいます。(もちろんそれによる恩恵もありますが)

昭和の時代であれば、物を作れば売れる時代でしたので、大量に消費するためにはその流通でもよかったかもしれませんが、今は違います。たくさん物を作る時代ではなくなりました。
その代わり、いいものを小ロット、丁寧に作る。そしてそれを理解してもらえる方に提供する。という流れに変わったことで、物作りの現場に近ければ近いほど、お互いの満足度が高いものが生まれるのです。

今回の一件で、諦めかけて止まっていたプロジェクトが、脳内で再稼働いたしました。
靴もですが、やはりカバンもずっっっとやりたかったのです。
鞄こそ、帯に短し襷に長しのように、これだ!!と満足のいくものはなかなかありません。

この革の製作の流れで鞄作りの流れも進めることができれば、より面白い店になるだろうとワクワクしております。

カタツムリから少しだけスピードを上げて、色々と実現に向けてやっていこうと思います。

ミニコンサート in 元赤坂

先日、プロのバイオリニストのお客様が来られました。
演奏会で使うディナージャケット(タキシード)を探していたとのことでお仕立ていたしました。

バイオリニストですので、バイオリンを弾いている時に綺麗に見えなくてはいけません。
色々と細かな調整は致しましたが、シャツの袖を普段より長めに取り、上着の袖も少し長めにしております。
そうすることで、演奏している時でも袖が短くなってしまうことがなくなります。

新郎のためのディナージャケットとは考え方が異なります。

コロナ前までヨーロッパでずっとプロとして活躍されていた牧野様。
帰国後、日本にもっと身近に音楽を楽しめる環境を作りたいという思いで、地元静岡の三島で音楽祭を立ち上げました。
土壌がない場所に花を植えるというのはとても大変なことだと思います。素晴らしい想いに感服いたします。

カフリンクスは両面のクラシックなものをお渡し致しました。
バイオリニストの動きを考えますと、カフスは裏側が見えることがあります。
ワンタッチで着けられるカフリンクスではなく、両面カフリンクスは着けるのがとても面倒ですが、片面のモダンでイージーなものより、カフスの面が倍使われていることになりますので、よりクラシックで高価なものになります。

昔は執事がいて、自分で着け外しするものではなかったため、美しさを最優先していましたが、そんな時代でもなくなったため、片面カフリンクスが一般化致しました。
ですが、ディナージャケットというタイムスリップできる洋服には、その不便で美しいアイテムの方が合います。


〈左端にある2つのカフスが両面タイプのカフス。それ以外は片面のワンタッチ式のカフス〉

たいへんありがたいことに、
「こんなに弾きやすいジャケット、初めて着ました」
ととても嬉しいお声をいただきました。

フィッティングが終わり、小物を取りに別の部屋に出て、7階に戻ってくると、エレベーターを降りた時からどこからともなく美しい音色が聴こえてきます。

小さな店が短い時間ですが、コンサートホールになりました。
1890年のアンティークのバイオリン。楽器は生地や革なんかより、もっと昔の物作りが評価されるものですね。
こちらのバイオリンも、今やもう手に入らない木を使っているとのことで、もはや技術の話ではないようです。

「あなたは永遠にオーナーにはなれない。あなたはその物を次の世代に託す間、借りているだけだ」

というのは、パテック・フィリップの創業者の言葉ですが、バイオリンやそのレベルのものは、もはや所有するというのはおこがましいのかもしれません。
使わせていただいている。という謙虚な気持ちを持つことで、人間的な優しさ、魅力が出てくるのだと思います。
所有できない物を持つという生き方、なんて尊いのでしょう。

今持っているものも、そのような心持ちで扱うと、より大切に愛することができそうですね。

最近、古着屋や委託販売の店に行くと、ビスポークのスーツが売られている機会が増えました。
これは一個人の意見ですが、ビスポークというのは、二次流通(古着など)に出すものではないと私は思います。
なぜなら、その人のために作られたものは、中古店で高値がつくはずがないからです。
結果、超有名店でフルハンドメイドで仕立てられているものも、破格で売られている現実です。

私はビスポークした洋服は、自分が着られなくなる、または飽きが来たら、人に譲るという方法が一番だと思っています。
自分が昔作ってもらったものが、近い存在の人が着て日の目を見ているという方が、よほど豊かだろうと思います。
そういう人が周りにいない!というのなら、そういう人との繋がりを今からでも作っていきましょう。自身の人生の生き方に、より彩りを与えてくれることになると私は思います。

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-Atelier BERUN-
東京都港区元赤坂 / 洋装士

Haruto Takeuchi / 竹内大途

03-6434-0887

https://berun.jp/


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