BERUNです。
年内の営業は本日をもって終了いたしました。
今年は大変ありがたいことに、非常に濃密で楽しい一年を過ごさせていただきました。
年々自分自身のものづくりが進化していくのを感じておりますが、今年は例年以上にその変化を感じた一年でした。
円安、ポンド高、欧州の物価高、それに伴い日本国内のあらゆるものの値上がりが余儀なくされた一年でした。
私自身は変化やハプニングは好転的に捉える人ですので、このマイナスに感じる出来事をどう転化させようかと考え、それがうまい具合に良い方向へとつながった実感があります。
より川上へ、上流へ向かい、より良いものを鮮度の高い状態で手に入れることを意識し続けています。
まだまだやりたいことは頭の中にたんまりありますが、それは人やものがすべてつながったときにはじめて動き出せるので、それまで温めて、ご縁を大切に日々生きたいと思います。
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表参道に引っ越してきて1年半が経ちました。
ちなみにこちらがたまたま出てきた青山に移転直後の店内です。
えっ?地面が見えてる。笑
壁が見えてる。笑
別のお店のようです。笑
物が増えすぎてしまい、青山の空間はすでに物が埋まりまくっておりますので、来年以降どうなることやらですが、この流れは止まらないと思います笑
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フィッターという生き方
わたしの仕事はフィッティングで価値を表現する、フィッターという職種です。
世間一般的にはテーラーと言われる業種ですが、実際に縫製をしている人からすると、「ちみ、テーラーちゃうやん?」と、ハテナマークです。(わかりやすくあえてその言葉を使うこともあります)
ざっくりと分けるだけでも、
カッター⇨生地を裁断する人
テーラー⇨縫製をする人
フィッター⇨フィッティングをする人
そのほか様々な役割があります。
一着のスーツを作るだけですが、様々な仕事があるのです。
フランスではすべて完全分業だといわれており、英国でもそれぞれのプロフェッショナルがいます。
英国のサヴィルロウはテーラーが隣り合っているため、それぞれの店を渡り歩いて仕事をしている職人もいます。
それがサヴィルロウのようにまとまることの強みですよね。
これはテーラードが文化として残っている英国だからできるのですが、日本ではそれが難しい。
そのため、1人であれこれやることが一般的なのですが、全ての工程が得意です!という人はどのくらいいるでしょうか。
意外と少ないとわたしは思います。
わたしがこの仕事はやりがいがありそうだし、楽しそうだな。と思い始めたのは20歳頃、スーツの縫製とか詳しいことはわかりませんでしたが、
「スーツを着ていてカッコいい男がいない!!カッコいい男を増やしたい!!」
が原動力でした。
つまり、わたしはカッコいいスーツを作りたかったのです。(安直ですね笑)
仕立ての良しあしはやりながら学んでいきました。
よく、
「どこかで学んだんですか?」
と言われるのですが、ほぼ独学です。
20代の、金はないが時間はあるときに、あらゆるところに足を運び、話を聴き、実践してみる。
その繰り返しでした。
なので、その当時のフィッティングは今と比べてみると、「若いなぁ」
というのが率直な感想です。
新しい生地の取り引き先が決まったら、まずその生地で作ってみる。
そして自分の服は必ず毎着新しい仕様や仕立てで実験してみる。
その繰り返しでした。
新しい工場との取引が始まったら、とりあえずたくさん作ってみる。
そのため、BERUNの店内にはたくさんわたしのスーツやコート、ジャケットがありますが、どれもが実験台の洋服なのです。
100点満点なんていう洋服はなく、どれもが次回に活かすポイントがある洋服です。
その改善点をお客様に活かすという繰り返しをしてきました。
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ノイズを減らす生き方
良いものを見続けていると、今まで感じることのなかった違和感に気が付くことができるようになります。
その違和感がなぜなのだろうと考えて、その違和感がなくなる物を作ろうと試行錯誤します。
脳のノイズをなるべくなくすこと。良いものを作るためにとても大切にしていることです。
そのため、食生活や日々の過ごし方も、自分を律するように意識しています。
なるべく無理をせず、でも心地よい負荷はかけ続ける。
そうして良い服を作る状態を保つように意識しています。
たまに動画のコメントで、
「モーニングルーティンや一日の過ごし方を知りたいです」
と言っていただくことがあるのですが、
店に来ているときの一日は、
朝は鉄瓶で湯を沸かして白湯を飲み、発酵玄米に納豆をかけて味噌汁と一緒に朝食をいただき、
昼は持参した玄米おにぎりを鯖缶とともに食べ、
小腹が空いたら煎餅を食べ、緑茶を飲み、
夜はもう一つ持参していた玄米おにぎりに味噌を塗り食べる。
というおじいちゃんみたいな一日なのです。笑
ここまで徹底するようになったのは比較的最近ではありますが、非常に快適で、食で悩むことがなくなったことでとても生きやすくなりました。
体も軽くなりましたし、気持ちの面でもクリアな状態が長く続くようになりました。
今までのわたしと言えば、生まれてこの方無類の甘いもの好き。身体の8割は甘いものでできている。マジカルバナナで、甘いものと言ったら竹内 大途と言うくらい甘いものがすべてのわたしでしたが、あることをきっかけに今夏からきっぱりと絶つことができました。
パンやケーキも大好きすぎて、旅先では真っ先にその街の有名なパン屋とケーキ屋を調べてニヤニヤする男でしたが、思い切って砂糖と小麦を断ってみて気がついたことは、世の中の行列の9割はこの2つのどちらかなんだなということ。
そしてその2つは、人間の本能に訴えかける欲望という名の電車(マーロンブランドか)なんだなと。
そうやって本能のままに動いていた頃から思考も行動も変わると、世の中のあらゆる物事を俯瞰して見ることができるようになんとなく思えてきます。
流行りものに流されず、洋服以外でもマイノリティであることに不安を感じることもなくなり、”決して傲慢ではなく”、自分軸に立ち続けることができます。(この傲慢ではないというのが非常に大切です)
しなやかさがありながら芯がある。
わたしが理想としている人はそんな人です。
いつからこんな話になったんだ??
あっフィッターという生き方からか!
だいぶ脱線しましたね。笑
良いものを作るために自分のコンディションを最大化しておく。
それは今年とても意識したことです。
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日本は縫製のスキルは非常に高いです。
しかし、いざフィッティングとなると、なかなかコレだ!というような美しいフィット感の洋服は少ないものです。
まぁこれは全部わたし目線の100%ポジショントークですので、「なんか小僧が言ってるぞ」
とご笑覧いただけたらと思うのですが、わたしはフィッティングに関してほぼ独学であったからこそ、自分独自のフィット感を作ることができるようになりました。
これがもし、
「フィッティングの秘伝のレシピ、これであなたのプロのフィッター!」
というものを買っていようものなら、自分の内から出てくる説得力もないですし、なんか見た事ある服だな。と既視感を拭えない洋服になりますので、唯一無二の物になるはずがありません。
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相反するところに美が宿る
また少し脱線しますが、茶道の世界で教えてもらった言葉で、
「重いものほど軽く持て、軽いものほど重く持て」
という言葉がありまして、その相反する行動に美が宿るというのです。
これはやってみると本当にその通りで、お湯をすくう竹でできた柄杓を持つとき、それ自体は非常に軽いのですっと持ててしまうのですが、あえてじっくりと重そうに持ち上げる。
そのさまに人の美しさが光るのです。
これを洋服に例えると、
硬くて重い生地ほど柔らかく仕立てる。
柔らかく軽い生地ほど構築的に仕立てる。
このように洋服を作ってみると、なんとも言えない洋服が仕上がるのです。
今の時代の洋服はこのように作られているものが少ないです。
柔らかな生地は柔らかく仕立てる。
硬くて重い生地は硬く仕立てる。
これが通常のものづくりです。
わたしの洋服を初めて着られたほとんどの方が、
「思った以上に軽いですね!」
と仰られます。
重い。硬い。着心地が悪いだろうと想像するツイードジャケットが、柔らかく軽い着心地だったら、想像を裏切られると思います。
硬いツイードが重くゴワゴワして着心地がわるいのはヴィンテージの世界です。
今わたしたちが生きているのは21世紀ですから、進んだ時代分だけでも、クラシックの歩を進めていく必要があります。
足踏みしていたらその瞬間から退化が始まります。
クラシックも常に変化、進化し続けているのです。
普段は古着やヴィンテージを勧めるわたしでも、テーラードとなるとおすすめしていないのは、テーラードには時代感が出過ぎてしまい、コスプレのようになってしまうのが避けられないからです。
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フィッティングで大切な事
当たり前のことですが、人の身体は頭から足の先まで繋がっています。
ですが、既成服というのはそれぞれ別々で売っています。
これにより、全体像で考えるのではなく、その物の”個”の格好よさで洋服を選ぶようになってしまうのです。
カジュアルウェアであれば何も問題ではないのですが、テーラードは考え方、大事にするポイントが他の洋服と全く異なります。
テーラードで大切なのは、”ブランドや仕立ての良さや毛芯がどうのこうのよりも、もっと先に、全身が繋がって見えるかどうか”です。
スーツというのは一揃いという意味であるというのはTHE BOOKに書いておりますが、その通りでスーツは揃っていることが大切なのです。
揃っているというのは、全体のバランスが違和感なく揃っているということ。
これを無視してしまうと、どんなに高級ブランドであったり、仕立ての良い洋服であろうと、”お洒落”の先には進めません。
フィッティングで大切なのは”つなげること”。
つなげることにより、その人の身体のシルエットを極限まで美しく見せることができます。
フィッターというのは、ただフィッティングをするだけではなく、私の中では、ここまでのことを考えてフィッティングをして、洋服を作る仕事だと思っています。
ただ採寸をしてはい終わり。という仕事でしたら、すぐさまAIにとって代わられてしまうのも仕方がないでしょうが、このレベルまで考えて1着の洋服を作り上げるというのは、AIでは不可能だとわたしは自信を持っています。
私はこのフィッターという仕事に誇りを持っていて、この仕事でどこまで美しい洋服を作ることができるか、自分の人生をかけて、実験している最中です。
最近は完成した洋服をご紹介するブログが続いておりましたので、今年最後のブログでしたので、久しぶりに暑苦しい話をさせていただきました。
まだまだご紹介できていない洋服がたくさんありますので、それは年明けのブログで少しずつご紹介していきたいと思います。
これからもわたしの人生は、美しい物に溺れた男の末路がどんな人生を送るのか。
という人体実験のなか、お届けしたいと思います!笑
2024年も大変お世話になりました。
2025年が皆様にとっても素晴らしい1年になりますことを心から願っております。
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-Atelier BERUN-
東京表参道の仕立て屋 / 洋装士
Haruto Takeuchi / 竹内大途
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みなさま、良いお年をお過ごしください。