BERUNです。
少しずつ日が伸びてきました。
寒さはこれから本格的になりますが、もう太陽はこっちに向かってきています。
春物のオーダーも増えてきました。
このくらいにお話をいただけますと、じっくり時間をかけてお作りすることができます。
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ヴィンテージの魅力
昨日、年に2回の大阪詣をして参りまして、ヴィンテージ生地を発掘してきました。
もう何度も足を踏み入れている秘密の倉庫ですが、行くたびに、
「こんなのあったの!?」
というように極上の生地がかくれんぼしています。



今回も過去イチの発掘量でした。
(支払いどうしよう。というのは考えないようにしています。泣笑)
全て、70~80年代の、紡績業界が最も栄えていた時代のもの。
40~50年前ですので、普通であれば生地の油が抜けていたり、虫食いがひどかったりするものが多いですが、ここは管理が完璧すぎて、当時に近いコンディションで保管されています。
今回、ヴィンテージでは難しいとされる、淡い色合いのものもたくさん発掘できました。
淡いものは生地が色褪せ、色焼けしてしまっているため、めちゃくちゃいい生地なのに、、残念。。
と思うものが多いのですが、極上のものをいっぱい見つけました。
ヴィンテージヴィンテージって、、何がそんなにすごいの?
と思う方もいらっしゃるかと思いますが、今と全く違う主義・思考で作られていたものとお考えいただけたらわかっていただけると嬉しいです。
60~70年代のクラシックカーのように、当時はそのような車が当たり前でした。今見ると、よくここまで手をかけていたよな。。めちゃくちゃ格好いいな。。と思うクオリティのものばかりです。
最高に格好いいもの作ろうぜ!!とあらゆるメーカーがしのぎを削っていた時代。現状に満足できず、そしてまだ見ぬ未来がある!という希望があった、豊かな時代ならではですよね。
その物の黄金期というのがあります。
北欧家具で言いますと、50~60年代。その時代は国策のように、エリートたちはみな家具メーカーに入り、今も名作として残り続けているものを生み出しました。
日本のファッションカルチャーはパイオニアの方々が60,70年代に海外に渡り、そして80年代、イッセイミヤケ、コムデギャルソン、ヨウジヤマモトの御三家と呼ばれるブランドで日本のファッションシーンは一時代を築きました。
その時代の流れに合わせて、国全体が力を入れる時がありますが、紡績業界の黄金期はまさしく80年代前後でしょう。
ヴィンテージの魅力は、糸の作り、生地のヌメリが今のものとは全く異なるところ。本当に良いものは古びません。
最近ヴィンテージと呼ばれるものの、あらゆるジャンルのものに興味が湧いてきてしまい、出費が止まらない毎日ですが、10年ほど前までは普通にあったものが、最近ではパタっと見なくなり、そして出てきたものはとんでもなく高額なものになっていることに出くわします。
(照明、家具、器、眼鏡、ラグ、時計、車、バイク、、etc..人生一回じゃ足りません笑)
ヴィンテージが何もかもいいというわけではありませんが、当時は工業製品のつもりで作っていたものが、今の時代のものづくりと比べてしまうと、これは工芸品だよな、と思えるクオリティのものが多いです。
時間をかけて物がゆっくり作られていた時代のものは、キメが細かく、物に奥行きが感じられます。
昨今、ミニマなんとかで物がいらないなんていう人がいるそうですが、シンプルに、いいものを知らない人たちの正当化に見えてしまうのです。
まぁ、それは物に埋もれるわたしのような人間の正当化なんですけどね笑
人は自分自身で豊かさを生み出すのには非常に鍛錬が必要だと思います。
それこそ悟りに近い思想が必要だと思うのです。
日本人の精神が年々貧しくなってきているとわたしは感じるのですが、それは戦後に宗教を剥ぎ取られ、物質的な豊かさを感じる感性を失った末路なのではと思います。
何年か前、地の時代から風の時代へと、時代は変わったけれども、それに伴う準備は、誰かしていましたか?笑
内観的な豊かさを生み出す、そういう教育がなされていたとは到底思えません。
わたしはまだ世界中に埋もれている、豊かな時代に作られた物を見て、感性を養いたいですし、心を満たしたいです。
時代を超えても良いとされるもの、時代が過ぎても素晴らしいとされるものに触れることが、美意識を磨く最善の方法です。
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ツイードアルスターコート
初めてお越しいただきました、T様。
今回はツイードのコートが欲しいというご依頼でした。


Lovat社のライトグレーのツイード生地を使いアルスターコートをお仕立ていたしました。
T様のイメージに合わせて、腰のポケットはフタ付きではなく、箱ポケットにいたしました。
そして袖口にはタブを付け、カジュアルな雰囲気にしております。

小柄なT様に合わせて、丈も長過ぎず、けれど膝は隠す、いい丈感に仕上がったと思います。
T様、たくさんご着用くださいませ!
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身体に合わせる洋服とは
初めてお越しいただきましたA様。
今までカジュアルな服装でしたが、テーラードスタイルの服装に興味を持たれたそうで、BERUNに足を運んでいただきました。
実はA様、BERUNに来る前に自宅近くのオーダースーツ屋でジャケパンを頼まれたそうなのですが、その仕上がりが納得いかなかったそうで、オーダーの難しさを感じておられました。
確かに、お作りしたものを見ると、身体に乗っていないなぁ。と感じました。
A様のお身体は確かに、フィッティングをする人からすると難しいでしょう。
ですが、このような方こそフィッターの腕がなります。
そもそも、恵まれたスタイルをお持ちの方というのは限りなく少数です。
多くの方が、
「もっと自分の身体、ここがこうだったらなぁ」
という思いを持っています。それが大から少まであるだけです。

肩幅とバストがかなり大きく、肩は怒肩。
そしてウエストはかなり絞られている。
身長は一般的な高さではあるのですが、肩とバストの隆起具合がなかなか特別なものをお持ちです。
フィッティングで大切なのは、どこを大事にするか、ということ。
その方のパーソナリティを見て、活かすべきところと隠すべきところを考えます。
よくやってしまいがちなのは、肩とバストを出してしまうとガンダムみたいになってしまいそうだから、肩を狭くしてバストも細身にして、全体的にシュッとした作りにしよう。という考え方。
これをやってしまうと、本来大きな身体の方なのに、キュッとした不自然にタイトで着心地のわるい洋服になり、それを隠すためにポリウレタンを入れて伸縮性を出したりします。
このやり方は技術はいりません。少しきつめに作って伸縮性のある生地を使えば、だいたいなんとなくいい感じに今っぽく見えるからです。
ですが、本当の意味で身体に乗っている。という洋服にはなりません。
それは身体に張り付いている洋服なのです。
無意識レベルで不快感を感じながら、洋服を着ることになります。
それに慣れてしまうと、ジャケットは疲れるからいいや。となり、アウトドアファッションサイコーとなるのです。
身体に乗っている洋服は、とても着心地がいいです。
着ていて不快感はなく、高揚感が出てきます。

わたしはA様の肩とバストを活かして、身体に乗せることを意識しました。
肩とバストはボリュームをしっかりと出す。
そしてウエストはしっかりと絞る。
ですがこれをやると、スラックスのサイズが重要になってきます。
わたしはジャケットだけ作りたい、というオーダーは基本受けないようにしておりますが、それがなぜかと言いますと、テーラードというのは、首から足先までの全体のバランスがとても大切だからです。
ジャケットは作ってもらって、下は自分の手持ちのやつを合わせる。という考え方がありますが、そうなりますと、ジャケットのサイズ感を手持ちのスラックスやパンツに合わせていかなくてはいけなくなります。
つまり、ものづくりの純度が下がるのです。

A様は肩とバストを活かしました。
肩の対は裾口です。
肩を出す分、裾口もゆとりを出すことで、肩の張り出しが目立たず、全体のバランス感が綺麗に整います。
身体に乗せたいときは、ハリと厚みのある生地を使うのがいいです。
A様、自分だけの洋服を楽しんでください!
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エスコリアルとスポーテックス
長いお付き合いのS氏からの紹介でお越しいただきました、O様とY様。
お二人とも普段はカジュアル畑で、スーツを着ることがほとんどないお仕事。
O様は近々結婚式があるとのことで、そこに合わせてお作りしたいということでした。
色々と生地をお見せしていたのですが、王家の羊と呼ばれるエスコリアルウールの生地をお見せした瞬間、目の色が変わりました。
普段あまり着ないからこそ、そのときは格別なものを着たい。
素晴らしいです。

ダークネイビーのエスコリアルウールのスリーピーススーツがあれば、たまにしかスーツを着ない方はもう完結じゃないですか?
スーツで悩むことがもうなくなる。
悩むというのはかなり負荷がかかることです。
嬉しい悩みならいくらでも悩み倒したいですが、あれどうしようこれどうしようというのはなるべくなら少ない方がいい。
スーツ悩み、終了〜です。笑

カシミヤや、Super◯◯のような光沢感というより、鈍く深い光沢がじんわり浮かび上がってくる。そんなイメージです。
共生地のブレイシーズで吊り上げておりますので、ウエストはゆとりを持たせてお作りしています。
ある程度の体型の変化にも合わせられるようにフィッティングは考えております。

O様、ありがとうございました!
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一緒にお越しいただきましたY様。
上背は低いのですが、鍛えられた肉体で肩とバストが前のめりになっているお身体をされています。
先ほどのA様同様、身長と体格のバランスが既製服では合わないようなお方の場合、どうしてもタイト目な作りの洋服を着ざるを得ないのです。
身長に合わせるとタイトだが、横幅に合わせると丈が長すぎてずるずるになってしまう。
そうなりますと、既製服の場合は前者を取ることになります。

生地はハリのあるドーメルのヴィンテージスポーテックス。
お色はブルー。

ダブルブレストにいたしましたが、Y様に非常に似合っておりました。
生地も丈夫ですので、たまにとは言わずにガンガン着ていただきたいです。

Y様、この度はありがとうございました!
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ヴィンテージライクを愉しむ
前回お越しいただきまして、今回はコートと靴、トラウザーズをお作りいたしました、A様。
キャバルリーツイルのジャケットをお渡しした際、この生地でトラウザーズもあればスーツにもなるし、上下別々でも使える!となり、トラウザーズも新たにお作りさせていただきました。


上半身ががっしりとされていて、足は細めというA様。
トラウザーズはゆとりを持たせて、裾幅もある程度出すことで、上半身の大きさを目立たせすぎずに全体の調和をとることができます。

靴はダークブラウンのセミブローグ。

そしてお作りしたバルマカーンコートは、先染めのポプリンという織り方の生地を使用したもの。
ポプリンはあまり聞き馴染みがないですが、ブロード生地の仲間です。
日本では糸の細い40番手以上のものをブロード、糸が太い20~30番手のものをポプリンと呼んでいます。

平織りのプレーンな表情で、先染めしているため糸の雰囲気が程よく不均一でなんとも言えない魅力があります。
一見するとコットンにしか見えないこちらの生地も、ウール100%で、それもまた面白いところ。

よーく見てみると、シワの入り方がコットンよりも柔らかな入り方をしています。
色はカーキベージュとでも言いましょうか。これはなんとも通好みな生地です。
こういう不思議な生地に出会うと、とても嬉しくなります。

そして、表をシンプルにして、裏地はタッターソールを使いました!
これがなんとも格好いい。
カジュアルな仕立てで、裏地も抜いた大見返しにしており、背中の裏側のみタッターソールを使っています。タッターソールの生地はDugdale & Bros.のウール地のものを使っております。

前立ては比翼仕立て。そのボタンの内側にも、タッターソールがちらり。
シンプルな顔付きの裏側に宿る洒落心。。
格好いい!!

BERUNのタートルネックに合わせて着ていただきました。
こういうカジュアルな合わせもとても格好いいです。
本格的なヴィンテージの洋服を彷彿とさせる、大変良い雰囲気のものが仕上がりました。

A様、自分でヴィンテージにするべく、ガシガシ使ってください!
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ヴィンテージ生地で仕立てるスーツ
初めてお越しいただきました、クラシックとヘビメタを愛するH様。
独自の哲学をお持ちで、あれこれお話をしているうちに(私が勝手に盛り上がってしまい)、気がつけばはしごを登ってヴィンテージの生地を出しておりました。

Holland & Sherryの80年代のヴィンテージ。
ヴィンテージの良さは、アナログな織機とアナログなアイデア、そして時間をかけてじっくり丁寧に作られているものが多いというところ。
現代のイタリア生地メーカーの、最新の生地の作り方を聞いたとき、
大量に全自動で作ることができる織機を使用していたり、色むらが出ないように、染色の工程のときには特殊なカバーが付けられ、全てのロットで色ブレが起きないようになっていたり、あらゆるものが全自動化されていたり、
最先端の技術を聞いたのですが、わたしの中では、
ふーん。
です。(失礼笑)(めちゃくちゃ顔に出るタイプなので誤魔化せない笑)
2016年にテイラー&ロッジ社に伺った際(当時工場を見学した時のブログがあります)、100年前の機械をいまだに使い、雨漏りしている屋根を直すのではなく、生地にカバーをかけて雨から守っていたり(これは単に直すお金がないからでしょうが笑)、もう工場内全てがANALOG一色なのです。
アナログがすべていいと言いたいわけではないのですが、進みゆく時代、手を離せば勝手にデジタル化していきますので、アナログであり続けるというのは強い信念が必要です。
AIやらITやらが進みすぎた今だからこそ、人の手のぬくもりを感じるものが魅力的に見えます。
ヴィンテージの生地はまさにそんな魅力が詰まっています。

柄が非常に面白いため、あれこれ難しいことは考えずに、シンプルなスリーピーススーツをお作りいたしました。
細身で怒り肩のH様。
細身のお方に細い洋服をお渡しすると、ただ細く見えてしまうだけです。
スーツというのは、その人の身体を良く見せることも、悪く見せることもできる洋服です。

スーツで大切なのは、肩から胸にかけてのライン。
これがストンと下に落ちてしまうのではなく、前にしっかりと張り出していることが大切です。
そのためには、細身の方には柔らかな生地を使うのではなく、硬くハリのある生地を使った方が、身体のラインをより綺麗に見せることができます。



トラウザーズのヒップからのラインがとても綺麗です。
やはりこのくらいのゆとりがある方がトラウザーズは綺麗に見えます。

非常にユニークで魅力的な生地です。
ツイードとフランネルの間のような、気軽に使える生地感。

H様、道内でたくさん着てください!
最後に、2月1日でBERUNは丸15年になります。
気がつけばもう15年。21歳から始めたBERUNですが、長いものに巻かれず自分の好きなものだけを伝え続けて、ここまで生きながらえることができました。
今まではパーティとかやっていましたが、お客様もかなり増えてきまして、なんだかそういう感じでも無くなってきましたので、今年は特に何かをするでもなく、16年目を迎えることになるかと思います。
こういう感じで、30年、40年、50年とやっていきたいと思います。
そんなBERUNをこれからもよろしくお願いいたします。
いつもお付き合いいただきまして、ありがとうございます!
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-Atelier BERUN-
東京表参道の仕立て屋 / 洋装士
Haruto Takeuchi / 竹内大途