BERUNです。
3月、また冬の寒さに逆戻りしました。
我が家へ続く中央本線は自然災害にめっぽう弱く、東京ではみぞれ程度の天気だったのですが、我が家の方はこんこんと雪が降り積もり、電車はしっかりと止まり、都内泊を余儀なくされました。
そういうときこそ、店内を片付けたり、空間作りを楽しんだりするチャンスだと、いそいそと普段なかなかできないことを夜通しやっておりました。
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アンティークランプの世界
自宅を建てる頃から、照明の大切さに気付き、せっかくなら良いものを揃えたいなと本腰を入れて探し始めました。
色々調べていくと、やはり行き着くところはアンティークになるもので、今はもう再現不可能な職人技のものづくりに感動するわけです。
自宅の照明の多くは都内のアンティークランプを扱う店で揃え、今もずっと照明を眺めては心を浄化しております。
日本の住居のほとんどが、天井に真っ白い円盤が張り付いているわけですが、その円盤がついていては、どんなに家具をこだわっても映えません。
わたしは皆様には、まずはその真っ白いUFOを外すことから勧めています。
そしてそのUFOを納戸の奥底に押し込み、まずはどんなものでもいいので、吊り下げ式の白熱灯の色の照明をつけてみてほしいのです。
それを替えただけで、空間に暖かみが生まれます。
家具や空間作りにこだわるのは、そこからです。
その吊り下げ式の照明だけでは真っ白いUFOに慣れていると明るさが足りないので、その次は2,3個、間接照明を置いてみてください。
「OK Siri」
や、
エクセラ?アセロラ?
そんな声を出して明かりがつくという利便性にかまけるのではなく、わざわざ自分で灯りを点ける、という手間を楽しんでいただきたいです。
先日、アンティークランプのショップのオーナーがこんなことを言っていました。
「今は人と物の関係性で、人間の方が上にきてしまった。だから、物が壊れたら買い替えるというようになってしまった。昔は人と物が対等だった。だから物が壊れたら直す。モノづくりにこだわる。愛着をもち、長く大切に使う。という関係だった。だから本当に良いものを手にしたいと思ったときは、人と物の関係が対等だった頃のものを選ぶのが良い」
これは非常に金言だなと深く納得いたしました。
壊れたら直すより買い替える方が容易い今、どんどん新しいものばかりが身の回りに増えていくなかで、わたしはどんどん虚無感が強くなっていくように感じるのです。
人がこだわって作ったものに囲まれて生きる。
一昔前までの人生の大先輩方はそれが当たり前でした。
わざわざ手間をかけること。そこに人の営みと愉しみがあると思います。

こちらは神楽坂のマンションで店をやっていたときに使っていた照明でしたが、その後、使い道がなく、長らく自宅にしまっておりました。
しかしもったいないから使いたいと、天井付けのタイプをペンダント式に替えることで、今の店内に使い、息を吹き返すことができました。
こちらは1920年代のもの。


新しくフロアランプも届きました。
1920年代のもので、イギリスのコッツウォルズのお屋敷から出てきたそうです。笑
コッツウォルズの屋敷からのBERUN。
どんな店ですか。(自分で言うな笑)


テーブルランプも増えました。こちらも20年代。

ネクタイ置き場の奥に鏡を設置いたしました。
鏡の前にランプを置くことで、空間に奥行きが生まれます。
一つ一つ灯りを点けるのは手間ではありますが、点っていくたびに空間が色づいていくのを感じられ、穏やかな気持ちになります。
戦前のモノづくりは何事においても圧倒的なクオリティの高さを感じることが多いです。
豊かなモノづくりに触れることで、インスピレーションをいただき、今の時代から生まれる新たなモノのクオリティを高めていきたいという思いです。
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エスコリアルとヴィンテージカシミヤ
初めてお越しいただきましたU様。
仕事をリタイヤした今、カジュアルな服装ではなく、ドレスアップをして日常を過ごしていきたいという素敵な考えを持ちの方でした。
歳を重ねた方だから、着ることができる洋服というものが、このメンズクロージングの世界にはたくさんあります。
今回U様にご提案したのは、そのような生地たちです。



ジャケットは、エスコリアルウールのフランネル生地。
ブラウンベージュカラーに、うっすらパープルの格子が入っていたり、非常に奥行きのある色柄です。

トラウザーズは年始に買い付けて、非常に気に入っておりますSmith woolensのオフホワイトのウール100%のもの。
この上下の色合わせがエレガントで素敵です。





U様には今回合わせて、カシミヤのチェスターフィールドコートもお作りいたしました。
生地は70〜80年代のMoorbrook社のカシミヤ100%のもの。
現代の柔らかく、毛並みがあるカシミヤとは異なる、毛足が短い肉感のあるどっしりとしたカシミヤです。
私の中で、最高のカシミヤと聞かれたら、こちらのようなものです。と答えるでしょう。
昔のものは基本前提、長く使える、着られるように考えられています。
つまり、職人たちの中で、言わなくとも10、20年保証という思いで作っていたのです。
まだ一生物という言葉が生まれる前のものづくりは、数十年着ることが当たり前の品質でした。
一生ものという言葉が頻繁に使われるようになったのは、大半のものが短命で終わるようなものづくりに変わった時代からです。
それこそ、人と物の関係性で、人が上に行き始めた時代あたりから、一生物という言葉が使われるようになったのではないかと思います。
今は光沢ピカピカで毛足がトロントロンでかなり軽いものが良いカシミヤとされていますが、ふた昔ほど前までは、今とは全く異なるものが作られていました。
過去を知ることで、今、そして未来を知ることができる。
すべての世界に通じる原理原則です。

U様、末永くご愛用下さいませ。
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ビギナーズラックの方に
初めてお越しいただきました、若きW様。
今までテーラードクロージングに身を置く時間があまりなかったお方で、これから少しずつ人生をかけて間違いのないワードローブを増やしていきたいというお考えでした。
まだ若く、始まりの一歩をどのように踏んでいけばいいのかわからない。
動画という媒体上、どうしてもマス向けの話しかできないため、ベーシックな着こなしを発信しております。
それはそれで間違いない情報なのですが、小店に来ていただいた方には、その方に向けたピンポイントなご提案ができます。
今回のW様でしたら、教科書通りにご提案をするのであれば、まずは普遍的なものからということで、ネイビーブレザー。
そしてベージュのコットントラウザーズ。
シャツはサックスブルーのオックスフォード。
ネクタイはシンプルなレジメンタルタイ。
となるでしょう。
ですが、それはそれで間違いではないのですが、ホームランにはならないのです。
確実に一塁に出るコーディネートとしてはいいのですが、プロにお願いするのでしたら、自分が予期せぬことが起こる方が含みがあって面白さがあると思います。
わたしが今回ご提案したのは、ツイードジャケットとコーデュロイのトラウザーズ。


ネクタイはカシミヤのニットタイ。

ブレザーのような手堅いスタイルもいいのですが、お若い方がそのような着こなしをすると、
「学生服着てるの?」
となってしまう場合もあります。
とはいえ、自分が選ぶ範疇では、ネイビーやグレーから飛び出すことができない。
変な色を選んで失敗したらどうしよう。
という恐れから、ベーシックなものしか選べなくなってしまうことが考えられます。
ですが、安心してください。
「BERUNは、”わたしが”選びます笑」
つまり、責任はわたしが取るということです。
何を当たり前のことを。と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、普通はこの責任を、店側はあまり取りたくないのです。
もし店員が選び、それが気に入らないとクレームになった場合、店側が責任をとらなくてはいけません。
そのようなエラーを避けるために、日本の店は”御用聞きスタイル”が今も平常運行になっているのです。
その御用聞きスタイルであれば、自分の想像を超えるものが出来上がるはずがありません。
自分がほしかったものが仕上がり、
「うんうん、よかったよかった」
となるだけです。
ですが、自分の想像を超えたところに新たな発見があり、成長があります。
私自身、オーダーをするという行動に限らず、常に、
「7割のワクワクと3割のドキドキ」
というバランスを心がけています。
ときには逆転することもありますが、それがうまくハマったときの感動は計り知れません。
自分の想像の枠を出ること。
そこに面白さがあります。
W様にお作りしたこちらの生地は、年始に英国から買い付けたシングル巾のハリスツイード。
買収前のW Bill社がハリスツイードに別注をしていたもので、本社に眠っていたものを発掘いたしました。
青緑、ターコイズカラーのような綺麗なお色です。

トラウザーズはBrisbane moss社のコーデュロイ。
小柄なW様には、細畝のコーデュロイが合います。

靴はダークブラウンの外羽根のセミブローグ。
ネクタイは何がいいかなぁと思い選んでおりましたが、スコットランドで買い付けていたLovatのカシミヤ100%のニットタイが非常に合いましたので、そちらを選びました。
ブレザーのような教科書コーデは、本人の着る力も試されます。
そしてコツコツ積み上げていくため、時間もかかります。
最初の一歩は、少し洋服の力を借りて、2段飛ばしくらいで駆け上がるのも人によってはよろしいかと思います。
「プロにお願いする最大のメリットは、トライ&エラーをお金で買うこと」
と昔西野亮廣さんのラジオで話していて、いたく納得いたしました。
人生はあっという間です。するべきエラーと、しなくてもいいエラーがあると思っています。
そのうちの、プロにお願いすれば回避できたエラーは、しなくてもいいのかもしれない。
自分の得意分野を磨き、それ以外は信頼のできるプロに任せる。
それが自由に楽しく生きる一つの術かと思います。
W様、この度はありがとうございました!
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ベーシックを極める
今回は初めてのお方続きですが、N様。
普段スーツを着る仕事ではないのですが、大事な場面で着るスーツとコートが欲しいというご依頼でした。



シンプルなネイビースーツをお仕立ていたしました。
Smith woolensの320gmsの綾織の生地。
生地の滑らかさと光沢感もあり、質実剛健すぎない上品な生地です。
合物として素晴らしく使いやすいもので、まさに大事な場面で着るのに相応しいスーツです。




コートは昨年末に英国から発掘されたTaylor & Lodgeのラムズゴールデンベール。
きっと10年後には伝説の生地になっているでしょう。
まだ少しありますが、もったいないので、ご指名でない限り、そっと隠しておくと思います。笑
ネイビー無地でこれだけオーラのあるコートに仕上がるのかと、やはり質の高さを感じます。

シンプルだからこそ、とことん突き詰めたものを作りたいですね。
N様、この度はありがとうございました!
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-Atelier BERUN-
東京表参道の仕立て屋 / 洋装士
Haruto Takeuchi / 竹内大途