梅雨を快適に過ごす装い

BERUNです。

関東地方は梅雨に入り、雨が続いております。
これからの季節は”強撚糸“、”リネン“、この2つのワードをなくして快適に過ごすことはできません。
夏のカジュアルコーディネートに私はニットポロをお勧めしておりますが、これに対して、

「ニットポロなんてベタベタして暑くて着られないぜ!何言ってんだお前」

的なコメントをいただく事があるのですが、それは西洋の物を直輸入しているからに他なりません。
家具にしてもそう。
日本に入ってきた家具は急激な湿度変化に耐えられず、割れてしまったり、歪んでしまったりすることがあります。
木がそうなのであれば、布もそのような作用が起きるのも容易に想像がつきます。
そうであれば、日本の気候に適した生地にした方がいいでしょう。

BERUNが2年前に開発したニットポロは、糸からオリジナルで作成し、糸のサンプルだけで4回、襟型で3回、全体の形で3回と何度もサンプルを作成し完成した物です。
正直、個人店でこれだけやるところはなかなかないのではと他人目線になってみると感じます笑

BERUNがトラッドショップ(のような考え方)でよかったなと思うことですが、毎年新しいものを作る必要がないのです。

私自身のBESTが完成することで、時にマイナーチェンジはありますが、今あるものをゼロにして、また一から新しいものを作り上げるデザイナーとは仕事の質が異なります。

私の中での人生は、一つ一つのジャンルで「これでいいのだ」を見つける旅だと思っています。

私が大切にしている業界で、これといえばこの人。というプロを探すこと。
例えば、美容師で言えばこの方、
身体を整えてくれる人はこの方、
鞄作りで言えばこの方、というように。

洋服の色々なジャンルにも、たくさんの先生のような方がいます。
この分野はこの人、というものを見つけると、もうその分野であれこれ無駄な思考を使うことがなくなります。
別のベクトルに脳みそをフル回転させることができるのです。

BERUNでオリジナルのネクタイが数年前に完成した時から、金型のマイナーチェンジは1度だけで、ほとんど変えておりません。
私の中で、ネクタイは「これでいいのだ」が出来上がったのです。

最近で言いますと、ニットタイもそうです。
あまりに出来が良すぎて、「ニットタイの旅、これにて終了〜」となりました。

ニットポロもそうです。
なので、ニットポロはこれからも同じものを作り続けると思います。(糸屋が廃業にならない限り、、)

私自身、天才的なデザイナーのような湧き上がるデザインイメージを持ち合わせているわけではありません。
日常が豊かになるものを少しずつ作っていき、それで生活が満たされるような空間を作っていく。
なので、テーラーというよりは、やはり私の肩書きは、この仕事を始めて2010年の頃からずっと言っている、洋装士という仕事なのだと思います。

前置きが長くなってしまいました。

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ヴィンテージ生地のサマージャケット

いつもお越しいただいておりますO様。
今回は3着分だけ残っていたヴィンテージ生地を使いました。


40年前のホーランドシェリーのもの。
この生地は非常にユニークで、なかなか同じようなものを見かけることがないため、思わず私も作ってしまいました。

普通は柄を作るときには、生地の中に織り交ぜて作るのですが、こちらは格子柄が生地の表面の上に乗っているような作りです。

ベージュのかなりドライな強撚糸を使ったサマーウール。
胸ポケットを見ていただくとお分かりかと思いますが、内側の副資材が透けて見えるほど薄いです。
ですが、色味もベージュでかなり明るめなので、決してスケスケでみっともない。という感じではありません。

薄いのにハリがある。ボイルのような荒いタッチがまさにこれからの季節に重宝します。

袖釦は1つにしてみました。
生地の表情が非常に面白かったので、ここは少し雰囲気を変えてみようと思いこのような仕様にいたしましたが、なんだかとてもいい感じにハマりました。

共にお作りいたしましたのは、ブラウンの強撚糸のトラウザーズ。
ブラウンの中にイエローや色々な色が絡み合っているとてもいい表情の生地です。

国産の生地なのですが、色味がとても良いものが多く、英国のフレスコよりも目が細かく上品さも楽しめるため、まさにこれからの季節に活躍します。

教師をしておりますO様。
真っ黒い服ばかり着ていて、K-POPに夢中な学生たちが、先生の新たなワードローブに釘付けになっているそうです。笑
ぜひ、若い子達に大人の魅力的な世界をこれからも届けてください!
渋すぎて最高に格好いいです。

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フランスの香り

初めてお越しいただきましたK様。
生まれてから中学時代までおフランスで過ごすという、芳しい経歴をお持ちの方。

ご両親はまだおフランスにいるようで、今回は久々のおフランスに着ていける洋服を仕立てられたいとお越しくださいました。

今回選んだのは、E THOMAS社のウールカシミヤ。
細畝のベージュのヘリンボーン柄で、軽めのフランネル生地。

トラウザーズはダークネイビーのフランネル。
シャツはベージュの起毛にいたしました。
トーンを抑えて色で遊ばず、シックさの中に華もあるというとても上品なジャケットスタイルです。

まだお若いK様ですが、この色味であれば歳を重ねても着られますし、むしろ歳を重ねた方が魅力的になっていくものです。

ネクタイはウールタイもアリですが、シルクの方が上品さが出ます。
素材を合わせることも大切ですが、コーディネートがまとまっていれば、

「この人はわかってやっているんだな」

と思ってもらえます。

私が本当に伝えたいのは、着こなしに正解はなく、その方の”着る力”によって、その着方もアリなんだな、と思わせてくれる説得力があるかどうかなのです

その力がなければ、どんな着こなしも「それ、どうなの?」となってしまいます。
つまり、着こなしの正解不正解に囚われすぎるのではなく、自分の着る力を上げていってほしいということです。
それが上がれば、極論何を着てもokになりますし、何を着ても自分の色になります。

桑田佳祐さんが他のアーティストの曲を歌うとすべてサザンオールスターズの曲に聞こえるなんていう話がありますが、それは桑田佳祐さんの歌う力が計り知れないからだと思います。

K様、ぜひたくさん着て、ご自身の色を出していってください!

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アイリッシュリネンのスーツ

北海道からお越しのI様。
昨年、キャバルリーツイルとフレスコでスーツを作らせていただきました。
今回はリネンスーツのご希望でした。
今年に入ってから、リネンのスーツのご依頼が今までより多く、とても嬉しい限りです。

すでに本格的なテーラードは世の中的には”必要ない”時代に入ってきています。
私はいつも言っていますが、この洋装のスタイルは着物のような、装う文化になっていくと思っています。
着物の方を見ると、「あっ素敵」と思うような、そんな街に彩りを与えるものになります。(すでになっていると思いますが)
そのような観点から考えますと、もうこれ以上誰からも求められないものを、自分自身の意思と尺度で着ることを選ぶわけです。そうなれば、歴史とルールを学んだ上で、自分なりに楽しむというのがこの洋装の最も気高い向き合い方だと思います。

ツイードのスーツであったり、リネンのスーツというのは、街で必要とされる場面がありません。笑
ですが、ではただ単に無駄だというわけではなく、その必要のないものを思い切り楽しめることが人間であり、豊かさを育むことなのだと思います。

夏はリネン、冬はツイード、これは人類が地球から与えられて衣服を最大限に楽しむ上で、欠かせない素材だと思います。

カーキカラーのアイリッシュリネン。

何度も言いますが、リネンの生地はかなり目が詰まってきます。
最初の1、2年は長いなぁと感じるかもしれませんが、それ以降は、ホントだ!となります。

先日、5,6年前に仕立てたトラウザーズを履いてこられた方がいらっしゃいましたが、しっかりと目が詰まっていて、短く感じるくらいまで丈が上がっていました。
もちろん製作する前に水通し、地のめを整えることはいたしますが、それでも詰まってくるのが綿、麻素材です。

リネンこそ、ネイビーやグレーも格好いいですが、自然なお色のものも楽しんでいただきたいです。
アースカラーを思う存分楽しんだ先に、リネンであえてシックな色味のものを着るというのも、粋極まりない装いではないでしょうか。

装うというものには終わりがありません。
自分の人生が終わるまで、自分道を磨きあげていくものだと思っています。

小柄なI様ですが、細身にしたりはせず、ゆとりを持たせます。

こうすることで、体型に左右されない男性的で余裕を感じさせるスーツスタイルに仕上がります。

I様、いつもありがとうございます。

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シックなオッドベストスタイル

お仕事柄、シックなお色で装いを楽しまれているS様。
今回は夏向けのジャケットスタイルをご注文いただきました。

ジャケットにオッドベストを合わせるスタイル。
オッドベストについては何度かブログでもご紹介しておりますが、このジャケットスタイルにオッドベストを入れるというのは、とてもレベルが高いことです。
なぜかと言いますと、ジャケットとトラウザーズがすでに色や素材が異なります。
それに加えて、また異素材のベストを真ん中に入れるということになるのです。

つまり、この3種類の異色・異素材のものたちを一つの身体の中にうまーくまじ合わせなくてはいけないのです。
このオッドベストの着こなし、一歩間違えてしまうと、アメリカ・中国・ロシア、というような組み合わせになってしまいます。笑
友好関係のある3国を合わせなくてはいけないのです。

何が言いたいのかと言いますと笑、オッドベストの合わせは絶対にプロにお願いした方がいいということです。
そして、プロだと誰でもいいというわけではなく、オッドベストの合わせをある程度理解している人に限ります。

今回選んだのは、ヴィンテージ生地であるグレーのウールモヘアのメッシュ生地でお仕立てしたジャケット。

トラウザーズは、ラスト1本分出会ったTaylor & Lodge(テイラー&ロッジ)社の3PLYのグレンチェック生地。
グレーのジャケットというのは一見合わせづらいように思うかもしれませんが、生地の凹凸があり、表情があるものでしたら、比較的合わせやすいです。
まさにグレーonグレーの組み合わせです。

そしてオッドベストは、ネイビーブルーのモヘアリネン。
今回はS様のご依頼で、ネイビーとグレーの中でコーディネートを組んで欲しいというお話でした。
なので、その中でネイビーブルーカラーのベストを選びました。

オッドベストはジャケットの中に入る時は脇役、引き立て役になりますが、上着を脱いだ時は突然主役を抜擢される、そんな器用な立ち回りが求められます。
ムロツヨシさん的な存在でしょうか。

ネイビーブルーというお色はとても上品で、かつ落ち着きもあるため、非常に合わせやすさがあります。

今回のような、その方のイメージをしっかりと聞いた上で、合うものを選ぶというのが、私の仕事の最もワクワクするところであり、腕の見せ所でもあります。

これからの季節は上着を着る機会は減ってくると思いますので、オッドベストはますます活躍することと思います。

S様、たくさんご活用ください!

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夏休みをいただきます

最後に、7月28日から8月6日まで、ジョージアに行くことになりましたので、その間はお休みをいただきます。

また、9月8日から17日まで、昨年共に英国に行った高見君と、今回は東欧に行く予定です。

8月も少し店を開ける日は少なくなりますので、ご理解を頂けますと幸いです。

いつも駄文にお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。

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-Atelier BERUN-
東京表参道の仕立て屋 / 洋装士

Haruto Takeuchi / 竹内大途

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