BERUNです。
気がつけば今年はあと10日を切りました。
この時期は遅れて冬物をという方と、一足先に春物をという方がいらっしゃいます。
春物も順次揃ってきておりますので、ぜひお待ちいたしております。
.
グレージャケットスタイル
大阪からお越しのU様。
今まではお近くの店でパターンオーダーで洋服を仕立てられていたとのことですが、今回初めてBERUNにお越しいただきました。
安価な仕立てと良い仕立ての大きな違いをあえて一点だけ言うとしますと、肩から胸にかけての立体感があるかないかというのはとても大きな差です。
安価な上着は肩と胸に膨らみがなく、ペタっとしています。
良い仕立ては胸は前に出ていてボリュームがあります。
これはスーツは軍服から来ているというのが大きいと私は思っています。
軍服とは、男は男らしく、という洋服。
今の時代とはかけ離れた時代に生まれたのがスーツという洋服です。
肩と胸に立体感、ボリュームがあることで、より男性的に見える。
元々スーツとは、裸でいる時より、もっと言えば、他の洋服を着ている時より、スーツを着ている時が一番体格がよく見えて、格好良く見えるものでした。
私の亡くなった義祖父が100歳を過ぎてベッドで生活をしていた頃、知り合いが遊びに来れば、シャツを着てネクタイを締めてスーツを着て出向いていました。
さっきまで白い肌着姿の義祖父がスーツを着た途端、とても凛々しく格好良くなるのです。
洋服、いえ、スーツには年齢を問わず、人を引き立たせる力があるのだと再認識しました。
今時代は変わりまして、男女平等なんていう耳障りのいい言葉が当たり前になり、レディース&ジェントルメンという言葉は使われなくなりました。
それにより、性別が分かれていたからこそあった魅力的なものがどんどん消えていっています。
そのひとつにスーツもあるでしょう。
男女平等とスーツの仕立ての劣化は直接的な関係はあまりないでしょうが、男性らしくという言葉を強く言えなくなった今、そこの仕立ての良さにこだわる人はかなり稀有な存在になってきていると思います。
私はこの仕事をしていて常々感じることですが、レベルの高いものを突き詰めれば突き詰めるほど、
「これ、誰がわかるんですか?」
という話になります。
例えば、手縫いのボタンホール。この仕立てに気が付くのは1万人に1人ではないでしょうか?
だったら9,999人が気づかないものに、そんなに手間とコストをかけなくていいじゃないか。と思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、その1人の人と繋がることの面白さを体験してみていただきたいのです。
高い美意識を持った人と空気を共にすること。そうすることで、自然と自分自身の視座が上がっていきます。
私は衣食住という順番は本当にその通りだなと思うのです。
なぜなら衣というのは、唯一自分自身が365日24時間持ち歩くことができるアイデンティティだからです。
私はこういう者です。という、名刺よりも早く自分を指し示すことができるものです。
そこに配慮がある人かそうでないかで、周りの人の見る目は変わります。
さて、これが前置きなのか本筋なのかもはやわからないブログですが、U様にお仕立てしたのは、グレーのジャケットにネイビーフランネルというジャケットスタイル。

ジャケットは今はなきEdwin Woodhouse社の生地を使いました。
とてもいい生地です。


グレーのジャケットはなかなか難しいと思われるかもしれませんが、下にネイビーのトラウザーズを合わせると全く違和感なくハマります。
ネイビージャケットにグレートラウザーズの反対です。
上下の色を反対にするだけで、イメージがかなり変わりますね。
そして今回、コートもお仕立てさせていただきました。

コートは、以前のサブチャンネルで私のトレンチコートをご紹介しましたが、そちらと同じ生地で、630gmsのキャバルリーツイルという極アツな生地でお仕立てしたチェスターフィールドコート。

かなり厚手でドライなタッチのとてもいい生地です。
もう一生物というか、何生物なんでしょうかね。孫まで着られると思います。
なかなかパターンオーダーでは身体にバチっとハマることがなかったU様に、理想的なシルエットを作ることができたと思っております。
U様、この度はありがとうございました!
.
ツイードブレイザーという考え方
今回のご注文が3回目のI様。
スーツ、スーツときまして、今回は初めてのツイードをご注文いただきました。
ありがたいことに、BERUNと言えばツイードと思っていただけている方が増えてきまして、大変嬉しい限りです。
ツイード、本当にいいんですよ。(笑)
あと、モールスキンってどんな生地ですか?と聞かれることも多いです。
私のいうモールスキンは、Over 600gmsの、肉厚で硬派なものに限ります。
巷では400gms台のものもありますが、そちらですと途中で毛玉が出てきたり、やれてくるため、10年履くことは難しいのです。
とはいえ600gmsクラスのモールスキンはなかなか巷でも扱っているお店も少ないので、
「そんなも手に入らないもの勧めるなよ、、」
と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に良いものはどこでも手に入るものではないのです。
今回I様にお仕立てしたのは少し変わった仕様です。

ネイビーのツイードジャケットにメタル釦をあしらいました。

言ってしまえばツイードブレザー。
「こんなのアリなの?」
と思われる方もいらっしゃるかと思います。
私のブログでも今まで一度もご紹介したことがないですし、私自身初めてお作りしました。
これがオーダーの楽しいところなのですが、その人だから似合うというものがあるのです。
多くの方に合う必ず70点を出せる洋服というものもありますが、そういう洋服はホームランが打てないのです。
自分で生地を選ぶ楽しさもありますが、プロに選んでもらうことにより、自分では出すことができなかった飛距離を出すことができるようになります。
その細かな生地の選定や仕様の変化こそ、その方の個性であり、魅力なのです。
私が提案するものは、例えセオリー通りでなかったとしても、この人だったらあえてこれはありだ。
という、ルールブックを見ただけではわからない答えを出します。
グレーヘリンボーンのツイードジャケットは、それは間違いなく誰が来ても似合うものではあるのですが、一人ひとりにベストマッチするものは他にないかと考えますと、候補はいくらでもあります。
ネイビーのツイードジャケットにメタル釦、少し珍しい仕様ではありますが、I様にはとても合うと思いました。

トラウザーズは、ベージュのコットン。
非常に清潔感のあるコーディネートです。
I様、この冬たくさん着てください!
.
ツイード5ピース
夏にリネンのジャケットスタイルをお仕立てさせていただき、今回はツイードのセットアップが欲しいというご要望でお越しいただきましたT様。
ツイードでスーツをお仕立てするのであれば、柄を大人しめなものにする必要があります。
今回はオリーブカラーに、うっすらウインドウペーンが入っている。Lovatのツイードを使いました。

BERUNのスーツはブレイシーズも共生地でお作りする4ピーススタイルがデフォルトですが、今回はキャスケットも合わせてお仕立てしまして、5ピースをお作りいたしました。

ジャケットだけでもお使いいただくことができるので、着るシーンはかなり多いと思います。

T様、ぜひ20、30年とご活用ください!
.
純然たるネイビースーツ
いつもお越しいただいておりますS様。
今まで何度か仕立てさせていただいておりますが、すべてがネイビーカラーという非常にストイックで凛としたスタイルをお持ちのお方です。

今回は、私が英国から直接買い付けたアーサーハリソン社のネイビーブルーのミルド生地を使い、スーツをお作りいたしました。


フランネルよりも起毛感が少なく、厚みもそこまでないため、比較的長いシーズン着用することができます。
S様を見ると、スーツをかっこよく着るには、姿勢がとても大事だなと言うことを思わせてくれます。

トラウザーズのヒップから下にかけてのシルエットがとても綺麗です。

ネイビースーツにホワイトシャツに黒の革靴。
それだけでいい。と言い切れる男に、私はなりたい〜。
S様、いつもありがとうございます!
.
ネイビーブレイザーとキャバルリーツイル
いつもお越しいただいておりますT様。
今回は原点回帰をして、ネイビーブレザーをということで、お仕立ていたしました。

生地はWilliam Halsteadのウールモヘア。
何度も仕立てておりますが、とてもいい生地です。
これがあれば春と秋はまずOK。そして、冬もなんだかんだ着られますので、夏以外はご着用いただけます。
そしてもう1着。グレーのキャバルリーツイルの生地でお仕立てした3ピーススーツ。

とてもいいです。

ライトグレーのキャバルリーツイル。
かなりハリがありますので、何十年と着ることができます。

T様、いつもありがとうございます!
.
素敵なカシミヤジャケットとスプリングコート
いつもお越しいただいておりますO様。
もうこの立ち姿でお分かりの方もいらっしゃるくらい、立ち姿が素敵です。
今回は、春に着られる軽めのコートが欲しいということで、選びました。
Holland & Sherry社の80sのヴィンテージ生地。

ウールトロピカルのスーチング生地なのですが、お色味がとても素敵でしたので、こちらはスプリングコートにイケる!と思い選んだ1着です。

少しスポーティな仕立てにしたかったため、腰ポケットはフラップではなく斜めの箱ポケットにいたしました。

そして袖口はターンナップ。カジュアルな雰囲気が出て非常に素敵です。
1、2着、ベーシックなものがあれば、3着目以降はこんな感じで楽しんでもよろしいかと思います。
装いの世界は本当にいい趣味だと思います。
誰のために着飾るわけでもない。自分が納得する、美しいものを着たい。
若い頃の衝動は、モテたい、注目されたい。が大きいと思います。
そして日本人が残念なのは、伴侶を見つけたり、もうモテなくてもいいやとなったら、その後は突然、格好つけなくてもいいやとなってしまうのです。
これは装う動機が他にあるからに他なりません。
初期衝動はモテたいでいいのです。しかしそのまま行くのではなく、途中で線路のスイッチを変えるかのように、自分が納得のいくものを着たい線に乗り換えることができれば、生涯洋服と共に人生を楽しむことができます。
モテたい線から自己納得線へ線路を切り替えるには、自分の人生をよりよく生きていきたいという向上心がとても大切です。
西洋の人がなぜオシャレなおじさまが多いのかということについて私なりに考えたのですが、西洋の方は、オシャレを自分のアイデンティティーとしてしています。なので、周りに何と言われようと、私は自分の着たい服を着るという意思があるのです。
そこにはポジティブな感情でおしゃれを楽しんでいるという強い思いがあります。なので、パートナーができたり、結婚したりしても、おしゃれをすることが生きがいであるため、おしゃれを辞める事は無いのです。
対して日本の人は、モテたい、ダサく見られたくない、失敗したくない。と、基本的にネガティブな感情からおしゃれをする人が多い。
ダサく見られたくないが原動力のため、パートナーができたり結婚したりすると、途端におしゃれを辞めてしまう人が多いのです。
これはどちらが良い悪いという話ではありませんが、オシャレを前向きにするのか、後ろ向きの動機でするのかで、変化のしていき方は大きく変わっていきます。
なんだか向上心とか青臭いぜ竹内よぉ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、BERUNに来られるお方は洋服の楽しみに気がついてから、みるみる目の色がイキイキしていきます。(あっなんだか怪しくなってきた?笑)
洋服はわかりやすく一朝一夕で変化するものですし、それにより周りの人の見る目も変わっていきます。
最初の頃は、「おいお前、いきなりどうしちゃったんだよォォォォ」といじられ期がありますが、それをうまくあしらえば、徐々に良い評判が耳に入ってくるようになります。
その頃から、
「洋服ってすごい力を持っているんだな」
と自分で腑に落ちていきます。
その辺りから線路の切り替え時がやってきます。
初めは周りからの良い評判が嬉しく、洋服を着るのが楽しくなっていくのですが、だんだん自分が納得いくかどうかという高い水準での世界観に変わっていきます。
それがはじめのお話の、10,000人に1人、わかるかどうかという美意識に突き進んでいくという生き方です。
SASUKEでいえば、モテたい!が1stステージです。
モテたいステージの最大の難関は反り立つ壁。
そこでモテるのを諦めてしまう方もいます。
そして1stステージをクリアして、いざ!自分が納得したい!が2nd、3rdステージです。
そしてファイナルステージは、、、
自分の人生でどのステージまで行けるかを楽しむのが、自己納得線のいく道です。
.
O様にはジャケットもお仕立ていたしました。

カシミヤ100%のErmenegild Zegna社の生地。
こちらはヴィンテージというわけではないのですが、現行物ではなく10年以上前くらいのもの。
光沢バキバキのとろっとろのふわっふわのナウいカシミヤではなく、ヌメっとして光沢が抑えられていて、非常に品のある生地です。
これは私も作りたい。笑 ←きっと作る
そしてO様が着けていただいているのは、BERUNで最近完成したプリントのペイズリータイ。
ジャケットスタイルにもとてもハマります。



カシミヤは昔から上流階級の人たちに愛されてきた生地ですが、当時の上流階級の人たちは、あえて高級感を出すのは野暮だという粋な考え方でした。

そのため、昔のカシミヤは光沢感が抑えられていて、ただウールの質感ではないよね。この奥行き。そして触ると悶絶。というのが古き良きカシミヤでした。
それが今は、カシミヤを着てるよ!見て!光沢すごいでしょ!
とおしゃべりなカシミヤが主流になっております。
(今のカシミヤ全てがそうというわけではありません。今の時代でも、昔ながらの雰囲気を守ってモノづくりをしている生地メーカーはあります)
どちらのものがいいと思うかは人それぞれです。
ただ、昔はそういう物が良しとされていたというのが真実です。
美意識の価値観は変わるから、
「それは過去の話だ!今は今の価値観でいいじゃないか!」
というお方は、新しい道を突き進むのがよろしいかと思います。
ただ、あらゆるジャンルで過去を掘り起こすのが趣味であり、生きがいであるワタクシ竹内が思うことは、モノづくりのクオリティで過去のものを超えることはなかなかできないということ。
それは1つのものを作るために時間をかける余裕があったということと、ブランディング、マーケティングという言葉が今ほど当たり前に言われる時代ではなかった時のもの作りは、やはり良いものを作っていたということ。
今の時代は、売り方をうまくやればなんでも売れてしまうという時代。
昔は良いものを作らないと売れない時代。
なんだか今この時代を生きている人からしますとなんとも寂しい気持ちになりますが、わたしは過去のものを見て、リスペクトを込めて、今この時代にできる限りのマックス努力をして、未来に繋げるものを作っていくというのが、モノづくりをする人の使命なのではないかと思うのです。

なんだか熱くなってしまったので、今回はこのくらいにしたいと思います。笑
いつもお付き合いいただきましてありがとうございます!
.
.
.
-Atelier BERUN-
東京表参道の仕立て屋 / 洋装士
Haruto Takeuchi / 竹内大途