わたしが願う未来

BERUNです。

今年もあと1週間で終わります。
まだまだ若輩者ではありますが、この業界で9年仕事をさせていただき、無事新しい年を迎えることができそうです。本当に皆さまに感謝いたします。

日本の服飾業界の縮小

残念なことですが、わたしが創業当時からお付き合いをしていた長野のオーダーシャツ工場が、年内いっぱいで閉業することになりました。
ちょうど時を同じくして、新しい工房に出会っておりましたので、皆さまにはご迷惑をおかけすることなく仕事は継続することができます。
長い歴史をもった工場でしたが、ここ10年程はずっと赤字続きで、社長の体調を崩したことをきっかけに、閉業することを決めたそうです。少人数で営む会社は、1人が欠けることによって大きな損失が生まれるというのを体験しました。

BERUNで密かに評判のいいニットのオーダーも、今年の初めから製作が止まっておりました。
先方の会社と連絡が取れずにいたのですが、数か月ぶりに連絡がきたため話を聞いてみると、工場の受注をまとめて請け負う会社が倒産したそうで、ずっと連絡が取れない状況だったそうです。
つい先日、工場長から直接連絡があり、製作を再開することができました。

アパレル業界の製作側で働く方から話を聞いていても、そのような話が後を絶ちません。
詳しい方の話を聞いてみると、日本の歴史ある工場が次々と閉業し、そこに残ったとても年代の古い織機、アジのある生地を織ることができる機械などが行き場をなくし、中国に大量に安価で買い取られていっているそうです。
その機械を修復し、日本の技術を習得し、今めざましく中国製品はクオリティを上げていると聞きます。

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こちらはわたしが2016年の1月にイギリス ハダースフィールドに行ってきたときの機織り工場で撮った写真です。未だに1930年代の機械が使われているというから驚きです。(そのときのブログ)

わたしの友人で、お客様自身で採寸をしてもらい、中国の生地で、中国の工場で縫製して日本に届けるというネットオーダーのブランドをやっている人がいます。価格は格安です。
その方は、今の中国製品は物によっては日本製よりもクオリティが高い、と言っていました。
今は安くクオリティの高いものを買うのが容易な時代になっています。

なんのこだわりもなくしてしまうと、日本製や、高価な物を買う、という理由がなくなってきています。
メイドインジャパンを世界に!という活動もありますが、それを凌ぐ程に日本の技術の衰退と中国の発展はめざましいです。
このままで果たしていいのでしょうか。もちろん放っておくわけにはいきません。その時代の流れは止められないでしょうが、1人でも多くの人に、ホンモノに触れることを知ってほしいと切に願います。

フリマアプリの脅威

今はモノをいかに安く買えるか、というところがフォーカスされている時代です。
モノだけにとらわれてしまうと、安ければいい、と考えてしまうのも無理はないでしょう。
ですが、安価なもの安価なものと目指していく先に、本当の豊かさはあるでしょうか。

メルカリなどのC(カスタマー) to Cのフリマアプリが台頭してきて、益々新品、定価で物を買う理由がなくなってきました。
わたしもたまにチェックはしますが、このモノ余りの時代に、ただ安くモノを買えるというところに、愉しさや幸福感を感じられるとはわたしは思えません。(もちろん用途が明確なものをただ安く購入したいというときは、こんなこと考える必要もないでしょう)

どんなに時代が変わろうと、人は人からモノを買うことに意義を感じるでしょうし、モノだけを買うときと、モノに込められた”ストーリー”を買うときとが明確に分かれているはずです。

選択肢のある時代

今までは”買う”の選択肢が少ない時代でした。
ですが、今は色んな”買う”があります。

南部鉄器をメルカリで買うこともできますし、岩手の工房まで行って買うこともできます。
どちらもいい選択だと思いますが、その鉄器に湯を沸かしてお茶を飲んでいるとき、どんな情景を思い浮かべるか。そこに人生の深み、面白みがあると私は思います。

岩手の工房で腰の曲がったこの道50年のおじちゃんに、鉄器の使い方、価値、歴史を教えてもらった。そのあと美味しい蕎麦屋さんを紹介してもらって、あのときの蕎麦が美味かったなぁ。
もしくは、実際に作っている光景と人を見て、この鉄器もああやって作ってもらってたんだなぁ。など。
そんなストーリーを思い浮かべながら飲む時間は至福の極みでしょう。

メルカリで購入したときには、そんな情景が浮かぶことはありません。美味しくお茶を飲むことができた、以上です。

わたしが創業当初、スーツの襟の裏にスーツが完成した日を入れる、”スーツの誕生日”を思いついたのも、物と共に人生を歩んでいくことに価値を感じてほしいからでした。

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こちらはわたしのお客様が実際に撮って送ってくださった写真です。
2010年に作ったスーツを今でも現役で着てくれています。
ですが、このようなストーリーをユニクロのようなファストファッションで持てというのも無理があります。ファストファッションにはそれ相応の役目、使い方があります。

今まで沢山の”モノ”を持ってきたと自負できるわたしですが、自分の手元から離れていくモノは、ストーリーがないモノばかりでした。
たとえば、たまたま寄ったセレクトショップで60%オフになっていて、サイズが合ったから衝動買いした洋服、またはアウトレットで買ったもの、ヤフオクで買ったもの、など。
自分の手元から離れないものは、買ったときのストーリーが深く心に残っているものばかりです。

1つの例として言えるのは、おじいちゃんやおばあちゃんの形見分けとかではないでしょうか。(わたしは持っていませんが、そういう話を聞くと羨ましく思います。どんなブランド物よりも格好良く、価値があると思います)

これからの服飾業界はどう成り立っていくのか

先行き不安な服飾業界ですが、わたしはこれからの時代、良いものを身につけていく人とそうでない人が二分化されると思っています。(すでにその気はあります)
そこでしか手に入れられないもの。わざわざ時間と手間をかててでも手に入れたいもの。
モノ余りの時代に残るものはそういうものだと思います。

日本の文化、技術を守っていくためには、たくさんの人たちに、良いものに触れることによって、人生が豊かになることを啓蒙していくことが何よりも大切だと思います。

美は豊かさを生む

わたしのお客様が嬉しいことを話してくださいました。
そのお客様の取引先の人から、
「どこに連れて行っても恥ずかしくない。装いが素敵だから隣にいてもらえると嬉しいです」
と言われたそうです。

自分のために始めたお洒落が、いつのまにか周りにも伝播しているとてもよい話だと思いました。
そしてそんな豊かな心をもった人たちが、もっと日本に増えてほしい。
2019年はそういう人たちを増やしていきたい。洋服は贅沢品ではなく、立派な自己投資です。

そう願いながら、来年を楽しみに迎えたいと思います。

 


Atelier BERUN

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