春が来た

BERUNです。

厚手の洋服を着て外に出た日、内側がひっそりと汗ばむのを懐かしく感じました。これは春が来たということでしょう。今でも冬物の洋服の納品は続いておりますが、同時期に早めに春物をオーダーされた方の洋服も仕上がってきております。

まだ朝晩の気温の寒暖差があるので、薄手のコートを手に持って春の装いを楽しみたいものです。

今の時期にしか着られない洋服があります。その中でわたしが今とても着たい気分なのがSOLARO(ソラーロ)。英国ではサンクロスと呼ばれています。文字通り、太陽を味方につける生地です。縦と横の糸色をかえて織られる玉虫色は、春と秋に着たくなる魅力的な色です。

こちらも自分用に仕立てたのは2017年ですが、今まで片手で数えるくらいしか着ていませんでした。4年経ち、ようやく普通に着られるようになってきました。
テーラードに関わっていると、歳をとる楽しさをひしひしと感じます。

昨年の1月、コロナ禍直前に欧州に行ったとき、ヴィンテージウォッチを購入してきました。

オランダ、アムステルダムのゴッホ美術館を出た後、右側の脳がざわめき立っているとき、たまたま通りかかったジュエリーショップのウインドウで一本の腕時計を見つけました。思わず入店すると、奥から品の良さそうなおばさまがお出迎え。色々時計の話をしていると、奥からもう一本の時計を持ってきたのです。それがこちらの時計でした。

1920年代のものと推定されるパテックフィリップのヴィンテージ。海外でヴィンテージウォッチを買うというかなりリスキーな賭けでしたが、それをGO!とさせるくらいの破格で売られていたので購入しました。

これには笑い話のような後日談がありまして、お客様で酔狂レベルのパテックコレクターの方にこの時計を恐る恐る見せたところ、「こんなモデルはアーカイブにはない」と苦笑いされました。
偽物確定!?まぁ、それでも格好いいからいいやと思い開き直っていたところでしたが、この時代のものは、懐中時計を溶接して腕時計にするというのが出回っているとのこと。こちらもよく見てみますと、綺麗に溶接してあります。

真相は定かではありませんし、別に追うつもりもありません。ただこの雰囲気はとても好きで、気負いなく着けられるラフさもあり、長く持っておきたいなと思う時計です。(1日に10分くらいずれます笑)

今回、この時計用にKEIICHIROの革ベルトを作ってもらいました。ブラウンとグリーンの間のような色のクロコ。古びた時計が息を吹き返しました。

もはや1日に何十回も顔を合わせることになった携帯電話。時計の目的は変わりました。時間を追わず、時代を越えて楽しむもの。今の時代だからこそ、少しの時間でも時計の針を追い、ノスタルジーに浸る時間は大切だと思います。

Cashmere Check Jacket

すっかり暖かくなってきましたが、カシミアのジャケットが完成してきましたのでご紹介します。おそらく今回で秋冬もののご紹介は終わりかと思います。

ジョシュアエリスのカシミア100%の生地。ベージュのグレンチェックにパープルのペーンがかかっている雰囲気のいい生地です。
厚手な生地のため、本国ではコートとして使われていると思いますが、日本人にはこの柄でのコートは少し着る場所を選びますね。

カシミア100%ではありますが、生地の厚みと、柄の持っている雰囲気を考えると、下はデニムでも合わせることができます。これが薄手のカシミアになると、上品さが全面に出てきてしまうので難しい。とてもいいバランスの洋服ができました。

ベーシックなものが増えてくると、こういう洋服があると洋服選びが楽しくなりますね。

カシミアの上品さを活かすため、ベントはノーベント。ノーベントの後ろ姿はいつ見ても美しいです。

Light Grey Flannel Jacket

こちらはライトグレーのフランネルジャケット。フランネルではありますが、かなり薄手の生地のため、これからの季節に活躍するジャケットです。

※セットアップではありません。

この霜降り感が綺麗です。

上質な雰囲気が伝わってきます。

ノーベントの魅力に気付いてしまうとなかなか抜け出せなくなります。

Linen Safari Jacket

さぁ、お待たせしました。笑
ようやくこれから春らしい素材の洋服のご紹介です。

以前のブログでもご紹介していた、Harrisonsの春夏用の生地、Mersolairからリネン100%の生地を使用して仕立てたサファリジャケットが完成しました。

S様とは2010年の創業当初からのお付き合いになります。
当時はお互いに若くて飛んでいたので(笑)、起毛したアルパカのスリーピースを作ったり、幾何学的な柄でスリーピースを作ったり、色々実験的に面白い物を作っていました。すっかり大人になりましたが、その飛び具合は昇華させて今でもたまにやりたくなるものです。

こちらの生地はかなり厚手なリネンで、500gmsあります。それなのに、麻袋のような雰囲気にならず、上品さを感じるのはさすがハリソンズです。

生地の雰囲気は最後のフィニッシュ(仕上げ)という工程でほぼ決まります。こちらのリネンは500gmsという肉感でありながら、光沢のある表面に仕上げてあるため、上品な生地感を味わうことができます。

こんな感じでデニムとかにサラッと着ていただきたいですね。

サファリジャケットは巷にかなり溢れてきましたが、わたしなりの解釈で、カジュアルになりすぎないサファリジャケットを意識してお作りしました。
あくまでドレスさを失わないように、仕立ては崩すことなくカチッと仕上げます。
袖もシャツ袖にするのではなく、スーツの筒袖のままです。こうすることで、既製品とは異なる印象になります。
着丈も短くしてしまうとカジュアルになりすぎるので、しっかりとお尻が隠れる長さをとっておいた方が綺麗です。

この後ろ襟のボリュームもいいですね。広い肩からウエストにグッと入っていくライン、そして裾が跳ね上がるほどのプリンプリンの硬さ、これから着込んでいくのが楽しみなジャケットです。

サファリジャケットというアイテムはルールに縛られることなく、その人に合うディテールを詰め込んでいける面白さがあります。
ポロコートや、カバートコートのような決められた着こなしも楽しいですが、このように自分のスタイルを作り込んでいける洋服もワードローブの中にあっていいと思います。

去り行くFRESCO

春夏の定番フレスコを結構多めに仕入れました。
取引していた生地屋が、英国生地の取り扱いを縮小していくとのことで、わたしの店が潰れない程度に(笑)買い付けました。
単価が高く回転がわるい英国生地ではなく、毎年入れ替わるイタリア生地の方が扱いたくなるのは、商いをする身としては仕方のないことかもしれません。
ですが、いいものはいい!と伝える役目を(勝手に)担っているわたしのような物好き洋服屋からすると、なくなってもらっては困るのです。
このように日々いいものを見つけると、数年かけて使っていくという気持ちで多めに買い付けるのですが、こういった間違いのない生地は、確実にわたしの店ではなくなっていきます。

このような生地が当たり前に目の前にある今の時代に感謝をした方がいいかもしれません。おそらく20年後には、その時の若者には新鮮に映るような生地になっている可能性が高いでしょう。

今はもう再現不可能な生地というのはごまんとあります。
なぜなくなってしまったのか、残すことはできなかったのか。
今もこうして行っている日々の取捨選択を繰り返していくことで、淘汰されていくものが出てきています。

美しいもの、素晴らしいものこそ、次の世代へと受け継いでいくものを残していきたいですね。

情報化社会になり思うことは、情報や知識だけで作られたものには本当の意味での魅力的なもの、格好いいものはないんだということ。
目で見て手で触って、足で稼いで、匂いを嗅いで、五感で感じることがどれだけ大切なことか。
洋服に関してはなおのこと、アナログであることに価値があります。
それはいつの時代も変わることはないでしょう。


-Atelier BERUN-
東京神楽坂のビスポークテーラー

東京都神楽坂6-73-15
メゾンドガーデニア301

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