ウールとリネン、時々コットン

BERUNです。

昔読んだ、魯山人の料理王国という本の中で、こんな一文がありました。(昔のブログでも書いたような)
「良い店が少なくなった。その理由は、物が分かるお客様が少なくなったから、店側が技術を磨く必要がなくなった」
これを読んで、ナンダカとても虚しい気持ちになりました。

わたしの住まいである藤野という山間の街は、作家さんやアーティストがたくさん住んでいる場所で、日々ものづくりの人たちの話を聞いている私はとても良い刺激をもらっています。

昔ながらの工法で家を建てている大工さんとの話で、
職人がどれだけこだわったとしても、多くの施主は、見た目が格好いいかどうかという判断しかしないという。

施主「あぁーめっちゃいい!ありがとうございます!」

that’s all!!

だから分かってくれる方には惜しみなく自分の持っている技術を出したくなるけれど、そうでない方にはやはり人間なので、どうしても熱量は変わってしまうとのこと。

そうなれば、やはりお客様という立場がほとんどであるわたしたちのできることは、それぞれのジャンルを一つずつ勉強するのは難しいことで、良いものはどんなものかを分かるために、センスを磨くということがとても大切なのだと思います。

あまり詳しくはないけど、これがいいものかどうかは分かる。という感覚。

そして、なぜそれが美しいのかを聞いているうちに、よりその理解が深まる。
そしてその理解が増えていくと、街を歩いているだけで今まで見えなかったものが見えてきて楽しくなる。

実際、BERUNにお越しいただいた方の多くは、街行く人の洋服を見るのが楽しくなったという声を聞きます。
それは今までにない観点で物事を見る目が増えたということで、そういうポイントが増えることで、何をみてもワクワクできるようになるのです。

工業化されたものではなく、人の手を感じるものに触れること。
我々人間はどこまで行っても機械にはなれないわけで。
人間が人間らしくあれるのは、人が作ったものを身の回りに置くこと。
それに尽きます。

はじめに言いたかったことからかなり脱線してしまいましたが、ここ最近はより良いクオリティのものを作るべく、日々試行錯誤をしております。
新しいパターンの製作。コートやジャケット、ベスト、トラウザーズ。
コテコテクラシックではなく、だけど、しっかりと過去へのリスペクトを忘れていないものづくり。
それがBERUNの理想としているバランスです。

今のままでもいいんだろうけど、わたしの視座が上がっていくので、妥協したくない。
同じものを作っていたらお互い飽きてしまいますから。日々変化、進化を自然にしていくのがいいですね。

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そろそろ落ち着く頃かなぁと思いながら日々を過ごしておりますが、ありがたいことに忙しくさせていただいております。

最高気温が30度超えがアベレージになってきましたが、これからもう5,6度も暑くなると考えると、まだまだ我慢しなくては夏本番は耐えられません。

春秋のジャケットスタイルが仕上がってきております。

ウールリネンジャケット

沖縄からお越しいただいております、S様。
沖縄で孤軍奮闘、クラシックスタイルを貫いております。

多くの人がいいと思うものをわざわざ自分が選ばなくていい。とわたしは思います。
たまたまそれが好きなら話は別ですが、みんなが選んでいるということ、それが安心になっているようでしたら、その選択をしているうちはセンスを磨くことはできません。
自らの力で、足で、良いと思うものを探して選ぶ。
その経験や失敗がセンスを磨きます。

S様が初めて来られたときは18歳、これから大学生というお年でした。
そんな若い世代でクラシックの世界に足を踏み入れてしまえば、同世代からの槍の数は測り知れません。笑

「オッサンくさい!」
「就活するの?」
「それ私服??」

そんなことを言われ続けて生きていくのです。笑

ですが、それを言われるのは初めの3〜6ヶ月くらいです。
あれこれ突き刺してきた周りの人たちも、
「あっあなたはコレでいくのね」
と察し、そこから先は何も言ってこなくなります。

そして2年程経てば、周りからじわじわと称賛の声が耳に入ってきます。

「クラシックスタイル格好いいね!」
「おれもそういう格好したいんだけど、どうすればいいのかわからない」

そこから先はお釣りモード(笑)です。
長く着られるクラシックスタイルの洋服は、着れば着るほど馴染んでいくため、着込めば着込むほど、魅力が増していきます。
支払いは最初に完了しておりますので、あとは何年も着続けることで支払った額以上の価値を私たちに提供してくれます。
(それをお釣りモードと呼びます笑)

S様にお仕立てしたのは、Marling & Evans社のネイビーブルーのウールリネンジャケット。
トラウザーズはTaylor & Lodge社の3plyウール、色はグレー。

英国生地の2~3plyのトラウザーズはこれからの季節、とても活躍します。

ジャケットはウールとリネン、どちらも入っておりますので、下はコットン・リネン・ウール、どれでも合わせることができます。

季節も春夏秋と長い時期使えますので、おすすめです。

S様、いつもありがとうございます!!

ジャケット with オッドベスト

もう当ブログでは何度もご紹介しております、オッドベスト。
今回はO様にお仕立ていたしました。

アイボリーカラーのオッドベスト。
こちらがあれば、ジャケットスタイルのときだけではなく、スーツにも合わせることができます。
シンプルなスーツの中にオッドベストを合わせるだけで、華やかなハレの日に適したコーディネートに仕上がります。

意外と使い道があるのです、オッドベストは。

下はグレーのフレスコ。

ジャケットはHarrisonsのウール・モヘア・シルク・リネンという四者混の生地。
ブラウンにブルーのウインドウペーンという、程よい華やかさがありながら、合わせやすい1着。

文句なしの格好よさです!

また、O様には同じタイミングで、3PLYのフレスコというアーマースーツ(そんな呼び名ない笑)をお仕立てしました。
Martin & Sons.社の3PLYの生地は、500gms弱あり、かなり肉厚でハリのある生地のため、鎧のようでありながら、上等な仕上がりになります。
生地のハリを活かすために、仕立ては軽くします。
シンプルなネイビースーツだからこそ、間違いのない生地で選ぶと素晴らしいものが仕上がります。

O様、いつもありがとうございます!

サマーグレースーツ

ヴィンテージ生地の魅力は、もう作られることがないという儚さにあると思います。
原毛、機械、そして人件費などのコスト。

数年前、知り合いのおばさまから、子供のおもちゃとして、ブリキのロンドンタクシーをもらいました。
かなり古いものだそうですが、なんと裏を見るとMade in Englandなのです。

この頃はまだ、イギリスでおもちゃを作れるくらい物価が安かったということですね。
資本主義の宿命で、物の価値は日々上り続けます。
その影響としまして、昔は時間やコストをかけていたものがどんどんかけられなくなってくるのです。

そうなることで、一つ一つの物のオーラというのは変わってきてしまいます。
まぁそれも時代なので、価値観が変わり、今の時代のものがよく見えるように教育されていくのがわたしたちです。
ですが、そんな外的な教育を受けている私たちでも、古い洋館や、歴史的建造物を見ると、ワクワクしてしまうのは、本能的にはそのようなものが良いと感じているからなのかもしれません。
失われていく文化を今この時代に改めて息を吹き込むことができるのが、ヴィンテージ生地で仕立てる魅力だと思います。

F様にお仕立てしたこちらは、80年代の夏向けの生地。
ハリーポッターの世界観が大好きというF様。
趣からしても、クラシックを地で行っても似合ってしまう雰囲気をお持ちの若者です。

細身で強めのなで肩をお持ちのF様。
このような体型のお方には、しっかりと構築的なスーツにすることで、ハリのある立体的なフィット感を得られます。

スーツというのは、その人の生身の姿よりも、スーツを着ている方がはるかに立派に見せることができるものです。
つまり、ご自身の体格に自信がなかったとしても、それを帳消しにして魅力を引き出すことができるのがスーツなのです。
ですがそれができるのは、構築的なスーツに限ります。
昨今のテーラードのような、肩パッドや芯地が取り払われたジャケットでは、スーツの本来の強みである立体感を出すことができず、着る人の体格が魅力的かそうでないかという着る人に委ねられてしまうのです。
肩パッドや芯がガッツリ入ったジャケットはダサい、古い!
というのは、何者かによる教育(という名の洗脳)の賜物です。

コットンスーツ

若き紳士Y様。
お父様からのアイビーの血を受け継ぎ、ブリティッシュを混ぜ込んでいくことで、コテコテではないY様らしい着こなしが熟成されていきます。

今回お作りしたのはベージュのコットンジャケット。
と言いますのも、昨年同じ生地でトラウザーズを仕立てまして、ジャケットを作ればスーツとしても使える!と思っていただいたのです。

コットンやリネン素材で上下を作ると、それぞれ別々で使うこともできますし、上下揃いで合わせたときは格別です。
普段ソロ活動しているけれど、たまにグループでCDを出すバンドみたいですね。(ホントか?)

Y様は小柄で細身ですが、サイズは決して媚びません。
小柄で細身の方がもしその通りにピタピタフィットで作ってしまうと、誰もが容易に想像できるシルエットが完成します。
ゆとりを持たせるというその”ゆとり”こそ、その人の個性や魅力が光るところなのです。
テーラードの世界において、ゆとりのない着こなしにはその人らしさはありません。
Y様は初めてお越しいただいたときから、お父様譲りのクラシックフィットに慣れ親しんでおりましたので、そこに磨きをかける意図で、わたしなりにゆとりを持たせた次第です。

この装いで”背広散歩”に行かれたようです。
ここ何年かでクラシックな装いがかなり広がってきています。

BERUNを始めたばかりの2010年代は、、
お兄系やギャル、、テーラードではイタリアクラシコ一択で、正統派のクラシックスタイルなんていうのは一部の愛好家だけでした。
それがこうして少しずつ浸透してきているのを嬉しく思います。
これがブームにはならず、文化として定着していけるように、クラシック派の人たちはしっかりと伝えていきたいものです。


-Atelier BERUN-
東京表参道の仕立て屋 / 洋装士

Haruto Takeuchi / 竹内大途

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ウールとリネン、時々コットン” への1件のフィードバック

  1.  竹内さんの事を知ってからは、ひと昔前の人手による暖かみのある様々な物作りの分野に関心がいく様になりました。
    昨日はNHKで民藝運動の創設者である柳宗悦さんの番組が放映されていましたが、手作業の名もない日常使いの雑器
    に美を見出そうとする姿勢に心を打たれました。新しい分野に誘って下さった竹内さんに感謝です。
    まだ一着お願いしただけですが、家のワードローブは竹内さんにお任せしたいと思っています。

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