僕にはまだ早い

BERUNです。

たまたま偶然、わたしがローデンコートを着てきた日に、お客様もローデンコートを着てこられました。
同じシュナイダーのローデンコートでも、雰囲気が少し違います。
グリーンはいつの季節も着られますね。一番好きな色です。

冬の日光

先週、紅葉も終わり人の流れが落ち着いた頃、日光に行ってきました。
高円寺の古着屋、トランクのオーナー村田さんからご紹介していただいたUさんに出会っていなければ、こんなにも日光に足を運ぶ事はなかったでしょう。
日光東照宮のすぐ隣に拠を構える明治の館。100年前の洋館の中で営むオーセンティックなレストランです。
料理もとてもオーセンティック。使う素材にもとことんこだわり、観光客も常連客も満足する店作りはさすがの一言です。

UさんがオーダーをしていたKeiichiroの小銭入れが完成したため、その納品も兼ねていました。色はエトゥープ、グレージュのリザード。シャンパーニュとの色がとても合っています。元々エトゥープはエルメスが得意とする色のため、シャンパーニュとの色との相性は必然です。

明治の館から山にいくと、霧降高原の麓に山のレストランというレストランがあります。趣が変わり、そこもとても素敵なお店です。

夏に依頼をいただいていたレストランの女性用のユニフォームが完成し、実際に着ているところを見に行ってきました。
残念ながらクリスマスシーズンということもあり、ユニフォームを着ている女性方は、百貨店や外に出てしまっていて、実際に見ることができたのは1人だけでしたが、手前味噌ながらとても良い出来でした。表参道で店を構えるクチュリエSAKI UEHARAとの共同でのプロジェクトでした。
伸縮性があり、撥水機能に富んでおり、自宅で洗うことができる最新科学の生地を使用しました。働く女性のユニフォームにうってつけです。
今度はまた暖かくなる頃、来たいと思います。

日光は観光で来ているだけでは見切れないほど、文化が残っている街です。
クラシックカー愛好家たちも多く、文化を残そうという動きが他の街に比べて強いのを感じます。市全体が古いものを守ろうという意志があるため、その考えに賛同する人たちが集まるのでしょう。
スクラップアンドビルドを繰り返している東京にいる身としては、日光には東京にない物しかありません。とても魅力的な街です。

Uさんがベルギーからヤバイ(すごすぎて、語彙力がこのレベルでしか表現できません)ヴィンテージカーを購入し、それがついに届いた報告を受け、乗せてもらいました。
1960年代のVW、ビートル。一般的に出回っているヴィンテージカーの代表的な車ですが、このカラーと、コンディションは世界中探してもなかなか見つかりません。
前オーナーが新車から乗り続けてきた大衆車は、年を跨いで大切に扱われてきたことにより、芸術品へと昇華していきました。
日光はヴィンテージが似合う街です。緑と神社仏閣との相性が素晴らしく美しい。
石畳をガタガタと揺れながら走る時間、違う時代にタイムスリップしたような雰囲気に駆られます。

私が以前オーストリアに旅行に行った際、ブリティッシュグリーンのMG(英国車)が道に停まっていました。初めて生で見たとき、あまりの美しさに、妻を差し置いて、店の予約を忘れるほど見惚れてしまいました。その車を見たときから、いつか乗りたい!と心のなかで決めたのです。
VWの旅が終わる頃、車を停めると、なんとそのMGを所有しているオーナーの方がたまたま来店されていて、みせてもらうことに。
1年のみ製造されたというブルーカラー。海の深海に潜っていく途中のような、英国人が好む「青」の色です。
いつになっても夢を持つのはいいことだと思います。でも、今すぐではない。この車はまだ私には早い。もっと順当以上に、歳を重ねてから普通に乗りたい。
「手放したくなったら教えてください。それまで男を磨いて待っています」
そう伝えて、鼻息抑えられぬままに、その場を去りました。

機能的な世の中に思うこと

今の時代、車は必要がない、年間の維持費を考えれば、電車とタクシーがあれば車は割に合わない乗り物だといわれています。しかしそれは機能だけの話であって、好きな車に乗っているときの感情は換算されていません。どんな時代にも、表面的な数字、方程式では計算し切れないものがあります。

スーツも同じです。安いものなら今の時代、いくらでもあります。しかし、本当に丁寧に作られたもの、自分がこれだと惚れ込んだものを着ているときの幸福度は計れません。そしてそういうものには、作り手の思い、歴史を守ろうという熱い信念が込められています。
英国の物は丈夫であるため、巷のスーツよりも断然長く着ることができます。直して使い続ける。そう考えると、超贅沢品!というわけではないのです。

すべてを便利、不便、機能的かそうでないかという切り分け方をしていくのは、人間の感情にそもそもそぐわない考え方です。現代人のメンタルの不健全さが言われているのは、我々が発展をしていこうとしすぎるあまり、人間らしさを排除していった結果なのかもしれません。

僕にはまだ早い

私は背伸びもするし、時にはジャンプもするけれど、ジャンプをしても届かないものは、焦って手に入れないようにします。
我慢し切れず、どうしても欲しいときは手にするときはありますが、そういうときは、しばらく手中で寝かせておきます。いつかそれが手に届く日が来るまで、自分が熟成しているかどうかを確かめるために、たまに様子を見るのです。待ちながら歳を重ねていく時間も楽しいものです。
2年前に自分のために仕立てたポロコートもその位置付けでした。今の自分には似合わないし、きっと40歳になった自分でもまだ似合わない。本格的なポロコートは、R50だと思っています。それが着るのを許される日が来るまで、楽しみにワクワク待ち続けます。

男性が所有する物には、そのような物がいくつかあります。
首に巻くアスコットタイも、若僧は似合いません。華美な衣装が好きな人だと思われてしまいます。アスコットタイは、首のしわが気になってきた初老の紳士がはじめて似合うものです。
足が悪くなってきたらステッキを持つように。それまではFOX UMBRELLASをステッキ代わりに持ち我慢しましょう(もちろん、雨の日限定ですが)。

お洒落は若いときしかできないというのはとても残念な考え方です。そのように話している人は、本当の洋服の愉しさを理解していないのだと思います。

僕にはまだ早い。
諦めるわけではなく、希望的観測からの言葉です。
そう言える人生は愉しいと思います。

昼間は滝を見下ろしながら自然に囲まれて食事を愉しむ「山のレストラン」ですが、夜はまた雰囲気が一変します。
暗い山道を登っていくと、明かりがぽつんと照らされている静かなレストランでした。アプローチの灯りに導かれるように、階段を登っていきます。

今の時期は薪ストーブを焚いていました。
夜にお邪魔するのは初めてでしたが、とても静かで心地よい時間でした。

愉しすぎて、朝7時に東京を経ったのに、帰りは日光を出るのが21時を過ぎていました。夢のようなひと時をいつもありがとうございます。
今の時代、物を手放していく時代だといわれています。なるべく物を持たない、という考え方が取り上げられています。
わたしはその流れはとてもいいことだと思います。いらないものは手放して、本当に必要な物だけが近くに残ればいいんです。


Atelier BERUN

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