ビスポークの価値

BERUNです。

昨日一昨日の神楽坂は、久しぶりに人で賑わっていました。
自粛ムードが漂う中、暖かな陽気に誘われて外に出たくなるのも仕方ないかと思います。1日でも早く、今まで通りの生活に戻れることを願っています。
10数年に一度は起こる大波乱。これからの人生も起こるであろうこのような出来事に、自分ならどう向き合っていくか。
世界が急激な早さで狭くなっている昨今、今までは一つの国の小さな街で起こったささいな出来事でも、瞬く間に隣町、隣国へと広がっていく時代です。
世界で何が起こっても生き抜いていける自分であるために、自分を磨き続けることの大切さをひしひしと感じています。

直して共に歩んでいく

一昨年に仕立てたあるスーツがあるのですが、お渡ししてすぐに、お客様が転んでしまい、左膝から下が綺麗に裂けてしまいました。
泣きながらお持ちいただき、無事お直ししました。
どのような修理方法かといいますと、左の前側を膝下まで綺麗にほどき、ダブルであった裾をシングルにし、裂けたところを上に上げ、新たに縫い付けました。(言葉では伝わらないですね..)
横に一本線が出ましたが、膝から下なので、わる目立ちはしません。職人の技術とアイデアにより復活をし、とても喜んでいただきました。
先月、またそのスラックスを持ち込まれたお客様。裂けたところの周りの小傷が綻んできたとのことで、再度直すことになりました。
幸いにも余り布がたくさんあったことから、前回の修理と同じ作業をもう一度、今度は下の傷がないところまで切り取り、新しい布を”はめ込み”ました。
結果、横に2本の線が入ったこちらのトラウザーズは、過去に転倒してボロボロに裂けたとはわからないほど、綺麗なものに生まれ変わりました。

線もしっかりと合わせています。これが1mmでもずれるといけません。この修理は、完成したときにお渡しする余り布がなくてはできません。既製服ではここまで大きな布をもらうことはないため、この修理はビスポークならではでしょう。

H Lesser & Sons.のネイビーピンストライプのスリーピーススーツ。このクラスの生地で仕立てたスーツを簡単に諦めてしまうのは本当に勿体ないです。
直して直して、使い切る。スーツはパートナーです。何かがあったからといってすぐに切り捨てることはせず、向き合って、共に歩んでいきましょう。

春物が続々と仕上がってきております

2月に一足早く春物をオーダーしに来てくださった方の洋服が完成してきております。
わたしも、昨年から作りたいと1年間寝かせていた生地を先月、個人的に作りました。

ヴィンテージのホーランド&シェリーの生地、素材はウール&モヘア&リネンというとても珍しい組成です。
モヘアのハリとリネンの涼しげなタッチを作り出しているため、これからの季節に活躍します。

わたしが選んだ色は1番右下の若草色。リネンのネップが横糸に入っており、スラブ生地のような見え方です。
ブルー系の生地でジャケットだけお作りしてもとてもいい仕上がりになるでしょう。

今回のスーツの仕立ては軽く、生地のハリだけで着るような仕上がりにしました。

肩パッドは排し、背抜きの仕様です。明るい色のジャケットは、背抜きにしても内側のシャツが透けることがないため、気になりません。
モヘアやリネンは横のテンションに弱いため、引き裂きが起こるリスクが高い素材です。それを考慮しまして、背中心と後ろ両脇には補強テープを貼っています。こうすることによって、薄い生地を背抜きで仕立てても気兼ねなく着用することができます。(もはや当たり前のことなのですが、意外とこういった細かなことがなされていなかったりします)

ボタンはモスグリーンのナットボタンをあしらいました。今までであれば貝ボタンを使用しているところですが、ここ最近は同系色で合わせることに関心があるため、このボタンを選びました。

薄いながらもハリのある、とても魅力的な生地です。我ながら良い仕上がりでした。

同じ生地でお作りした、色が異なるスーツがこちらです。色はモカブラウン。色味としては春秋のように感じますが、生地感が涼しげなので、夏場でも着ることができます。

こちらは構築的に、肩パッドも入れ、裏地は総裏にしてあります。一見珍しくユニークな生地感ですが、必要以上にハズした感じにならないのは、さすがホーランド&シェリーです。

わたしは夏物であれば、スラックスの裏地を後ろにも付けます。夏物の生地は薄いため、こうすることで急な動きで起こる引き裂きを防ぐことができます。(着用中にしゃがむ、または座った瞬間に、ビリッという出来事は、一度は経験したことのある方はいらっしゃるのではないでしょうか。。)
こちらをタイトフィッティングのスラックスでやってしまうと、足が曲がらなくなってしまうためできません。ゆとりを出して作ることで、このようにスーツを長く着ることができる仕様にすることができます。

夏物は耐用年数が短いという方がいますが、それは薄い生地でタイトフィッティングにしてしまうからです。ビスポークでしかできない、ひとつのものを長く着る工夫は色々あります。

わたしは同系色のナットボタンを使いましたが、こちらは涼しげな印象のある茶蝶貝ボタンです。ボタンひとつで表情が一変します。一般的にはこちらの方がいいと思います。

ワントーンでまとめ上げることの美

こちらはFOX BROTHERSのスリーピーススーツ。色はネイビーですが、光が当たると青光りするなんとも綺麗なネイビーです。モヘアが入っていそうな光り方をする生地ですが、こちらはウール100%なのでどの季節も気兼ねなく着用できます。

同色で全て揃えるコーディネートは、間違えてしまうと野暮ったくなってしまいますが、バランスよく合わせると格別の格好良さを醸し出してくれます。
タイはネイビードット。そして、、

ブレイシーズ(米語:サスペンダー)もネイビーで合わせました。
ロンドンで見つけてきたEde & Ravenscroftのネイビーモアレ。ブレイシーズは外から見える物ではありませんが、怠らず。美は内部に宿ります。

靴は5年前に買われたというオールデンを今は合わせられていますが、ぜひ近いうちに英国靴を揃えていただきたいと思っています。

わたしが初めてイギリスに行った2010年の秋、当時高級靴はオールデンしか持っていませんでした。それを履いていったら、クロケット&ジョーンズの白髭丸眼鏡のおじ様に叱られて、その場でクロケットのコンビシューズを買った(買わされた?)ことは、今となっては良い思い出です。
その経験は、国を跨ぐコーディネイトをするなら、それなりの知識を持っていなくてはいけないということを教えてくれました。
様々な国のアイテムを“いいとこ取り”することは日本のお家芸ですが、自分のスタイルを一本持っておくことが何よりも大切です。

ビスポークの真意

トラウザーズのピスポケットは、左にのみ付けました。これは、N様の用途を聞いたところ、後ろは左のポケットにハンカチを入れるだけだというのを聞いたからです。
ビスポークとは、その人のためだけにお作りするものです。
その方がどのようにスーツを着るのか、真剣にお話を聞き、それに見合ったものを作ります。
その方が余計なことを考えず、シンプルに自然に、いつも以上の在り方でいられることこそが、本当のビスポークです。

買って売っての時代になり、物が飛び交う世の中ですが、ビスポークはひとつのものと長く深く付き合っていくことが最大の魅力です。
自分のためだけに真剣に考えて作られたものは、そのスーツと共に歩んでいくストーリーが何よりの価値です。

Atelier BERUN

東京都新宿区神楽坂6-8-23

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