BERUNです。
2012年からのお付き合いのO様。
8kg痩せられ、今まで作ったものが緩くなったということで、まとめてお直しの依頼をいただきました。
直しの量がすごいので、段ボールでまとめて送っていただくことに。
開封してみると、数年ぶりに会う洋服たちとの対面を果たし、我ながら「いい布陣を揃えたなぁ」と感動してしまいました。
思い出のスーツたちを愛でる
O様に初めてお作りしたのは2012年の秋。
1着目は「MINOVA(ミノバ)」のグレーシャークスキンのスリーピーススーツです。
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このときO様は、会社から独立することを決めたときでした。
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2012年10月に完成しました。
この襟の裏を見れば、そのときの想いが込み上げてくるのがいいのです。
続いて、「Martin & Sons.(マーチンソン)」の3PLY、霜降りがかったネイビーです。
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こちらも日本での取り扱いがほぼ消滅しかかっています。マーチンソンネームはもうなくなってしまったのではないでしょうか。
わたしがこの生地に初めて出会った時の衝撃は、今でも忘れません(はじめての出会いは22歳の頃)。
どこにでもある、ヤワな生地を使って仕事を始めていたとき、当時の師匠からこの生地が入った英国のゴリゴリクラシックな生地しか入っていない生地バンチ見せてもらいました。
こんな生地が世の中にあるのか。。こっこれが本気のイギリス生地か。。!
この生地はあまりにもタフすぎて、裏地の方が先に破れるという業界内の逸話を持っている、文字通り”最強”の生地です。
この生地で一着スーツを仕立ててしまえば、あとは必要ない、という仕事の方もいるでしょう。
もちろんこのスーツも、びくともしていませんでした。
お次は今はなき「EDWIN WOODHOUSE」のVinvage Twist。
こちらも霜降りがかったネイビーカラーです。
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これは本当に名作でした。メーカーごと廃業してしまいましたが、本当に惜しいです。
この生地で仕立てたことのある方は、これが1番気に入っている。という方がとても多いです。
続いてこちらは「Smith Woolens」のグレーのバーズアイ。
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グレーのバーズアイは一着ぜひ持っておいていただきたいスーツです。
必ずご自身のマスターピースになります。
私も「H Lesser & Sons.」のヘビーウェイトの生地で、ダブルのグレーバーズアイのスーツを持っていますが、いつ着ても気持ちが引き上がります。
「Martin & Sons.(マーチンソン)」の秋冬物、400gmsの肉厚な生地。
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綾織で綺麗な光沢を楽しめます。
ネイビーのストライプですが、ピッチが広めでエレガントな雰囲気を感じます。
日本ではストライプといえば細いストライプの生地が一般的ですが、理想的なストライプの巾は17mm前後です。
Scabal(スキャバル)の傘下、「WEIN SHIELL(ウェインシール)」の夏物、ハイツイスト。
モヘアが入っていないウール100%の夏物の生地ですが、とてもドライな触り心地で、3シーズン活用することができます。
個人的にモヘアのタッチはとても好きですが、スーツで仕立てるのでしたら、ウール100%の方が断然長持ちするのでお勧めです。モヘア混はジャケットがいいですね。
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この頃から昨年の終わりまで、ネームタグは胸ポケットの中に入れていました。
自分にとっての納得解はどこか
過去9年の歴史を振り返って、変わらないものと変わっているものの違いを感じておりました。
内ポケットの仕様は常に変わっていますね。
昔は「お台場が正解!!」と思っておりましたが、今はそうではないことを理解しています。
お台場にすることで、内側の生地の厚みが増してしまいます。イタリア生地のような薄手のものであればそこまでは影響がないかもしれませんが、英国の肉厚なものであれば着心地が微妙に変わってきます。
「お台場の方がいい仕立てだ!」
「ボタンは水牛に限る!」
「袖は本切羽でなくては!」
これらはどれも、雑誌やインターネットを見ると正解と謳われている仕様ですが、手放しで正解だと言っていいものかどうか、ご自身の着方を踏まえて今一度考えてみることも大切です。
たとえば本切羽は元々、袖をまくりやすくするためにボタンを開けられるようにしたものです。
ご自身のアイデンティティとして、袖をまくるなんて考えられない。という強い気持ちがあるのなら、わざわざ切羽を開けなくてもいいのかもしれません。というより、そのような方にとっては切羽を閉じた方が説得力が増すかもしれません。
先日お会いしたお客様がこんなことを言っていました。
「正解、不正解のことばかり考えていても、そこに自分の意思はない。大切なのは、自分の中で”納得解”を作ること」
この服飾の世界、いってしまえばテーラードの世界は、正解不正解ではなく、納得解を決めることが本当に必要な業界です。
もちろん最低限の正解不正解を知ることは必要ですが、その基礎を覚えたら、あとは自分の世界を築いていくことで、自分のスタイルを確立することができます。
とはいえ、そうそう簡単に納得解を出せるほど安易な業界でもありませんから、そこはじっくり自分の成長とともにどう変化をしていくのか、楽しみましょう。
わたしも自分自身の納得解をこれからも探して、築いていくつもりです。
さて、最後はスラックス、どちらもフレスコです。
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左のベージュはフレスコライト。右のグレーは2PLY。
フレスコライトは強さがありながら、しなやかさもあるという使う人を選ばない便利さがあります。
基盤があるから楽しめる
全てお直ししてしまうと着る物がなくなるので、今回は一部です。
どれをとっても名作ばかりで、この布陣を作り始めた2012年から、自分自身はかなり変化しているのを感じていますが、根本の軸は変わっていないんだと感じました。
O様も数年ぶりでしたので、馴染みの方がなかなか来られなくなると、うさぎハートの私としては、「好みが変わったのだろうか。」と内心、心配してしまう私がいます。
実際はその反対でした。
今まで作った洋服が全くへたらない。クローゼットをどいてくれる服が1着もない、全てが大活躍しているという嬉しいお言葉でした。
まるで10年以上テニス界でトップ争いをしているジョコビッチ、フェデラー、ナダルのように、誰にもトップを譲らないのです。(フェデラーはさすがに年齢もあるので最近落ちてきましたね)
これは私がまさに理想としていることです。
(その分次、次と新しい洋服に変わっていかないので、商売としては上がったりなのですが笑)
はじめにこのように鉄壁の布陣が完成すれば、あとは自由に楽しむことができます。
少し遊びをきかせたもの、耐久性ではなく、着やすさを追求したものなど。
本来、遊ぶのはそこからでいいのです。
ベースがないところから遊びを効かせてしまうと、自分の軸が確立されません。
その結果、ふわふわとした軽い着こなしになってしまい、流行や周りの意見に流されてしまいます。
コットンスーツ
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もうひと方、鉄壁の布陣を固められたK様が、新たに作られたもの。それはコットンスーツ(右側)です。
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季節が限定されるコットンスーツというアイテムも、基礎がしっかりと固められているから作れるというものです。(仕事柄、一着目でコットンスーツという方もいらっしゃいますので、その方の人生に合わせたものを考えてお作りします)
-Atelier BERUN-
東京神楽坂のビスポークテーラー
東京都神楽坂6-73-15
メゾンドガーデニア301