職人技

ベルンです。

何かと忙しかった年末年始を乗り越え、このところようやく落ち着きを取り戻してきました。

今月末には春夏物の生地が出揃うので、ビスポークの楽しさを実感していただくには、気持ち早目の今、春物を仕立てることが賢い選択かもしれません。
ポンドが高騰し生地の価格が上がってはおりますが、できるかぎりがんばりたいと思っております。

さて先日、独立時計師という仕事をされているK氏がお越しくださいました。
彼は若くして独立し、たった1人ですべての工程をこなし、一本の時計を作られている方。
わたしが今までお会いしてきた中でも群を抜いて職人気質を持った方です。

K氏は3月にスイスで開催される「バーゼル・ワールド」という世界最大の新作時計発表会で展示を行うことになっており、その際に着用するスーツを仕立てさせていただくことになりました。

美的感覚の優れた世界の人にも評価していただけるよう、素晴らしいものをお仕立てしたいと思います。

K氏と初めてお会いしたときも、ご自身で作られた時計を4本も見せていただきました。
4本とも異なったギミックや作りを盛り込んでおり、確実に日本の若手職人レベルの底上げに貢献しています。

こちらは着用されていた一本。

どことなく和の香りも漂う時計。
スイス時計にはない独特の魅力が感じられます。

K氏にはホーランド&シェリーの「City of Lindon」の生地を使用し、スリーピーススーツをお仕立てします。

420g/mの高密度の綾織生地。
経年変化を楽しめる質実剛健なクオリティです。

K氏と話していたことで印象的だったのは、職人の賃金が安すぎるとのこと。

アパレル業界においても、国内トップクラスの技術を持っている工場でも、そこで働いている人の給与水準は最低賃金スレスレというのが現状です。
技術習得に時間がかかるのに見返りが少ないとなると、今の若者は後を継ごうと考える人は少ないようです。

しかしそこの賃金を上げてしまうと、すべての価格が一気に上がってしまう。
先進国はどこも、そこのジレンマに立たされています。

街の○○屋と呼ばれていた堅気なお店は、後継ぎがいなくここ数年で急激に減少しています。

わたしが今危惧しているのはクリーニング屋です。
高い技術を持ちながらも、安価で対応してくれていた街のクリーニング屋さんが、どんどん姿を消しています。
わたしが出している青山のクリーニング屋の店主によると、20年前には地区に50店舗ほどあった手仕上げのお店が、今は3店舗ほどしか残っていないそうです。

その残った店舗も店主の高齢化のため、あと10年後には1店舗も残っていないといいます。

そうなると客に残された選択肢は、朝出して夕方に上がるコンビニエントなチェーン店か、1着数千円する高級クリーニング屋のどちらかになってしまうでしょう。

物価の上昇とともに、利益を取るのが嫌いな昔ながらの職人気質の人が、まっとうに働いていても生きていくのが難しくなってきている世の中。

これからは、人の手が加わったものにはしっかりと正当な対価がかかり、価格に反映されるようになるのではないでしょうか。
大量生産、工業製品で納得のいく人はなんら悩むことはないかもしれませんが、やはり人は人の作ったものでしか感動できないと思うのです。

人のぬくもりを感じられる物に囲まれて生きる喜びを、これからの時代より深く感じることになると思います。

いつもありがとうございます。

ベルンでした!

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