プライベートスーツの世界へ

投稿日:

BERUNです。

ようやく梅雨が明けました。

8月は毎年ゆったりとした時間が過ぎていきます。
お盆明けにはため込んでいた秋冬物の生地が大量に入ってくる予定です。
ぜひ、楽しみにしていてください。

昔ブログで、「プライベートスーツという考え方」ということを書きましたが、その流れは今回の件によって、急速に進んでいくのではないかと思います。(もう4年も前の記事でした。)

今年に入ってから、ブラウン、ベージュ、グリーンといった子然な色合いの洋服を作る方が増えてきました。
最近完成したスーツ2着もその流れです。

ブラウンスリーピーススーツ

1着目はブラウンのスリーピーススーツ。
素材はウール・モヘア・リネンの三者混というとても珍しい配合のヴィンテージ生地。ホーランド&シェリーのものです。

ボタンは茶蝶貝。夏のアースカラーの洋服にとてもよく合います。

立体感のある生地のため、ウエストコート(ベスト)の背中は表地にしました。こうすることで、夏の暑い日に上着を脱いで出かけても、ウエストコート単体でしっかりと役割を果たしてくれます。

夏の暑い日は上着を着ずに、このスタイルで完結します。

いつもお越しいただいているH様。
こういう面白い、変わり種の生地を見つけるとついついお声かけしてしまいます。仕上がりにとても満足していただけました。

リネンが入っていることで、横糸が白く柄のようになっています。洒落心をくすぐります。とてもいい表情です。

グレージュスリーピーススーツ

お次はベージュがメインで、全体的にグレーがかったリネンの生地でお作りしたスーツ。
ハリソンズのSEA SHELLという新たに夏の服地として加わった生地。リネン100%ではなく、テリレンという化学繊維が含まれています。西欧の人たちは、我々日本人よりも化学繊維に対して抵抗感がないそうです。テリレンが入ることで、リネンの最大の弱点である引き裂きを極力防ぐことができます。


2年程前から週末仕事を手伝ってくれている、ステッドの夏用の初プライベートスーツとして仕立てました。
今までベーシックなネイビー、グレーのスリーピース、そしてネイビーブレザーというお手本のようなコンサバスタイルを作ってきたので、今回は羽を伸ばして、いざリネンのスーツへと足を踏み入れました。

タイはモスグリーンとゴールドの中間という、絶妙な色合いのBERUNオリジナルタイを合わせました。ここがベージュやブラウンのタイでは、教科書通りのVゾーンになってしまいます。それもわるくはないのですが、少しツマラナイかもしれません。
華やかさを持たせる意味で選びましたが、この色合わせはとても綺麗にハマりました。

ワタリ巾(ヒップの下の太腿の始まるところ)はいつもより細く仕上げています。ヒップから裾に向かって落ちていくラインが美しい。

当日履いてきたエドワードグリーンのセミブローグと合わせていましたが、二人で、
「このスーツならコンビの方がいいよね!」
と意見一致。
しかし、グリーンの靴は文句なしに綺麗ですね。

バックシルエットが美しいです。
これは本人が拝めないところです。一番美しいところが自分では見えないというところも、テーラードの世界の素敵なところではないでしょうか。

リネンは植物系の素材のため、アイロンワークで立体感を出していくということが難しい生地です。動かない生地で立体感を出していくのは、採寸の腕が試されるところです。

彼の要望は、それぞれ単体でも着られるようにしたい。
その要望に応えるべく、今回は着丈をいつもより1cm短くし、前ボタンの位置を1cm上げました。
トラウザーズのワタリを少し細くしたのもそれが理由です。トラウザーズ単体で履けるようにと、少しスポーティな印象にしています。
このくらい微妙な手を加えるだけで、表情はガラッと変わります。

単体で着ることができるようにお作りしましたが、やはりスリーピースで着るのが一番格好いいですね。

なぜ今プライベートスーツなのか

簡素化、カジュアル化していく中、なぜこれからプライベートスーツなのでしょうか。
今回の流れをきっかけに、「洋服なんて本当にどうでもいい、ワンマイルウェアで世界中に行ける」という方と、「一着一着はいい物を持ちたい」という方、明確に二分していくと思います。
その後者の方の中でも、「高価なブランドものを着ていたい」という方と、「適切な価値のある本物を持ちたい」、という方に分かれます。

「適切な価値のある本物を求めている方」は、人生を楽しむためには、洋服が不可欠であるという考えをお持ちでいらっしゃると思います。

私は昔から、20万円で高級ダウンジャケットを買うのであれば、ウールカシミアのチェスターフィールドコートを仕立てた方がいいと思っています。
別の物で例えますと、2万円で安いスーツを買うくらいなら、2万円の傘を買った方がいい、という考え方も同様です。
これは、支払うお金の価値を最大限にするには、何を購うべきか、ということを考えた末の私なりの結果です。

プライベートスーツを仕立てるとしても、もちろん高価な買い物にはなります。
ですが、それをきっかけに、人生、休日の過ごし方、時間の豊かさを感じることができるのであれば、とても良い選択だと思うのです。

例えば、ツイードでスリーピーススーツを購えば、それこそ一生ものです。暖かいし、丈夫だし、何より格好いい。この三拍子揃っているのはなかなかありません。人生フルマラソンだと考えたら、決して高くはない買いものではないかと思います。

これからますます世界は簡素化されていき、コンビニエントになっていくでしょう。
人となるべく接することなく、仕事をこなし、食事をする。
その空白になりきった日常を満たしていくのは、私は余暇をどう過ごすかではないかと思うのです。

その余暇はせめて、自分の過ごしたいように過ごしたい。
それが生きていく価値なんだと思います。

Atelier BERUN
東京神楽坂のビスポークテーラー

http://berun.jp/
Facebook
◆Tel : 03-3235-2225

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です