多少の不便は喜んで買う

BERUNです。

自宅で過ごしていてふと感じたことですが、現代の家は全館空調が主流になり、どこの部屋に行っても快適な家が増えています。(我が家はそうではありません笑)
電気もLEDダウンライトが主流になり、声で反応するような物も増えてきました。(我が家はそうではありません笑)

車もそうです。黙っていても進んで止まる車は、まさに人が理想として思い描いていたものでしょう。
製作者側は、いかにお客さんに喜んでもらえるか、ということを日々考え、新しいサービスを開発します。

究極このまま時代が進んでいけば、人が起きてから寝るまで、全てのサービスが提供される世の中になるでしょう。

先週の話の続きのようですが、極論アウトドアブランドの洋服をそれぞれ1、2着ずつ持っていれば、それ以上いらないという思考に至るのもわかります。
(実はアウトドアブランドは行く場所がかなり制限されるのですが、それを感じさせない世の中になってしまっています)

しかし、なぜ人はこんなにも便利な世の中になり、その享受を受けながら、アナログに生きる人に魅力を感じてしまうのでしょう。

なぜボンドはアナログに髭を剃るのか

007のダニエルクレイグが出演している「スカイフォール」のワンシーンで、洗面器に泡を立て、一枚刃の髭剃りでヒゲを剃っているシーンがあります。わたしのとても好きなシーンです。

<007 スカイフォールより>

なぜ、2時間という限られた映画の中でそのシーンを使っているのか。私はそこに007が伝えたい男の姿があると思っています。

(ここから熱量高めになります笑)

そもそも男は無駄を愛し、ロマンと夢を追い求める生き物だと考えてみてください。
そして女性は、現実を見て地に足をついた生活をすることを望むものだと仮定してみてください。

現代の男性が中性化しているというのは、男がロマンや夢を追うことがなくなり、現実を見て生きていくことを選んだ結果だと思うのです。
昔と比べ男女のファッションに境目がなくなってきているというのが何よりだと思います。

今の世の中、わざわざスリーピーススーツを着る必要はありません。合理的に考えると、洗えるスーツが1着あり、使い捨てるように買い直せばそれで十分です。
休日もニューバランスにデニム、上は夏は白T、冬はダウンがあれば事足りてしまいます。

全員が全員、現実だけを見て地に足をついた人生を生きていくことを選んでしまったら、この国は面白みのない、無個性な人たちの集まりになっていってしまいます。

007がいつの時代も、これだけ魅了される人たちが多いというのは、本当はみんな心の奥底ではこんなふうにロマンを追って生きていきたいという表れだとわたしは思います。
ロマンを追い続けていく男たちは、とても大きなリスクを抱えて生きていくことを選択した人たちです。今の世の中には必要ないと言われていることを、わざわざ選択して生きていく人たちです。
そういう人たちが、わずかでもいいから、生き続けていて欲しい。
無駄を愛していく姿こそ、文化を残していく人たちだと思うのです。

ロンドンのジャミンストリートには、今でも多くの紳士のための洋品店が並んでいます。その中に「Taylo of Old Bond Street」という店がありますが、そこは現代では不必要と言われるようなものが、所狭しと店頭に並んでいます。
その店内では壁一面に、アナログな髭剃り用品と泡立て機がセットになっている、紳士の身だしなみグッズがとても美しく並んでいるのです。
日本では1つでも置いていれば珍しいと思われるものですが、さすがは紳士の国。
アメリカは量を取り、イギリスは質を選んだという話があります。文化を守るため、不器用なまでにクラシックに生きるその様は、男(紳士)たるものどうあるべきか、という問いにイギリスという国が答えているような気がします。

戦後、昔は貴族たちでしか楽しめなかったものを、誰もができるようになりました。
今や日本では、誰もがなりたい自分になれる時代になっています。
もしジェームズ・ボンドに憧れたなら、その思いを、映画を観た2時間だけに留めず、人生に少しでも持ち込んでみてはいかがでしょうか。

全てが合理化された世の中を望んでいる人は、決して大多数ではないと思います。
ただ、そういった時代の先を行ってる(っぽい)人の声が大きく目立つだけです。

自分の生き方を決めたら、あとは迷わないこと。自分なりのこだわりのポイントを決め、そこを磨いていきましょう。

冬のジャケットスタイル

BERUNでは冬物の納品が続いております。
お客様の多くの方は、服装に関しては、多少の不便さを喜んで買うことを選んだ方々です。
どのジャンルで不便さを楽しんで、何で現代的に生きるかはその人の選択です。全てをアナログに生きる必要はありません。

H様にお渡ししたこちらは、Edwin woodhouse社のブラウンヘリンボーンのジャケットに、ARISTON社のモールスキンを使用したセットアップコーディネイトです。

シャツはわたしが好きな生地、コットンフランネル。綿100%ですが、表面を起毛させていて温かみのある風合いを出しています。実際かなり暖かいです。色はグレーがかったシックな色です。

タイは最近新たに完成したウールタイのなかから、グレージュカラーのウールタイをお見立てしました。

そういえば、先月末に完成したウールタイのご紹介ができていませんでした。笑

左から、ブラウン、グレージュ、ネイビー、モスグリーンです。
ウールタイですが、シルクが25%入っているため、柔らかさもあり、冬のコーディネイトにとても活用できます。9cmの太いウールタイは上品さがあって美しいです。

こちらのタイの色はグレージュ。秋冬のジャケットスタイルは、ぜひともチーフを取り入れていただきたいです。白にこだわらず、素材はウールで、タイとも色は合わせる必要はありません。

チーフもウール素材であれば、ペイズリーやドット、チェックのような柄物も自然に溶け込んでいきます。

走れるジャケットスタイル

こちらは最近完成したレザースニーカー。革はフレンチカーフ「アノネイ」社の革を使ったとても贅沢なスニーカーです。ダークブラウンなので、ここはベルトも同じ色で合わせました。

BERUNに来られる方で、カジュアル派の方は、たまにアシックスの「Run walk」を履いて来られる方がいらっしゃいます。正直いって、一番歩きやすい革靴だと思います。
普段ランウォークに履き慣れている方が、本格靴に転向すると、はじめはリハビリ期間が必要です。笑
O様は堅い革靴は履かないということで、こちらのレザースニーカーをお作りしました。

お仕事柄、堅苦しい格好は求められないため、今までずっとカジュアルスタイルの洋服をお作りしてきました。

バストが薄く、全体的に細い身体のO様。肩が張り出していて、前肩、そして腕が長いという既製服ではなかなかジャストサイズに巡り合えない身体です。

出すところを出して、絞るところは絞る。その匙加減は店次第ですが、わたしなりのレシピでフィッティングをしました。

今回お仕立てしたジャケットは、ARISTONのコットンリネン生地のジャージー生地。コットンリネンという素材ですが、厚みがかなりあるため、通年着ることができます。
ARISTONという生地メーカーはイタリアの生地メーカーの中でもかなり責めた色使いの生地を作る会社です。この生地メーカーをご存知の方でしたら、
「ARISTONなんてBERUNっぽくないな」
と思われるかもしれません。
わたしはARISTONの最新の生地はほとんど見ることはなく、季節毎にアーカイブを見ています。その山のような生地の中から、ごく稀に真面目に作られているものを見つけては、買い付けています。生地の買い付けは店側の趣味嗜好がはっきり出るので、見る側も愉しんでいただけるかと思います。

こちらの生地で一枚仕立てで仕立てることで、カーディガンを着ているような着心地を得られます。そして、タイをすればビジネスでも着用することができます。これはBERUNのカジュアル派のお客様にはかなりうってつけのものです。

ジャケットは着るけれど、タイはしない、というO様。そのため、シャツは柄物にしました。シャツも無地になってしまっては全身無地になってしまい、アクセントがなく、全体的にぼんやりとした印象になってしまいます。

わたしなりの、服装を極めていく道の流れの理想としては、いきなり応用編・カジュアルスタイルではなく、まずはベースの型を知っていただきたい。そのため、カチッとした英国スタイルのものをベースとして持っていただく。
そこで身をかためるところからはじめることで、その人のライフスタイルに合ったカジュアルへの引き算の度合いがわかってくるのです。

Run walkには劣るけれど、ちょうどいい見た目と履き心地のレザースニーカーは、ニーズが合えばお勧めです。

秋晴れが続く日本列島。お洒落をしてどこに出かけましょうか。

-Atelier BERUN-
東京神楽坂のビスポークテーラー

東京都神楽坂6-73-15
メゾンドガーデニア301

http://berun.jp/
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