BERUNです。
「わたしは育ちのいい人ではないから、せめて仕立てのいい人間になろう」
という文章をどこかの本で読みました。(残念ながら何の本かは忘れてしまいました)
とても素晴らしい一文だと思いました。
この本の作者は立派な生まれの方なのですが、そのような方でも、謙虚にあるあり方が美しいです。
生まれは自分では選べない。しかし、生まれた後の人生は自分で決めることができる。
今は士農工商の時代でもなければ、奴隷制度があるわけでもありません。ましてやこの平和な日本にいるのは、過去の人たちからすればこんな羨ましい生き方はない!と思われるでしょう。
だからこそ、自分の生きたい人生を選択することができるとわたしは思うのです。
わたしは、この洋装の世界に出会ったお陰で、仕立てのいい人間になりたいと思える気持ちを持てるようになりました。
もちろんお金も時間もかかりますが、幸いなことに、そこに喜びを感じるメカニズムであったため、わたしの人生はシンプルに、美しいものを見て、感じたことを世に出していくという一生になりそうです。
さて、前置きが長くなりましたが、すでにインスタを見ていただいている方はお分かりかと思いますが、先週まで関西に1人で旅行に行っておりました。
大阪⇨神戸⇨京都
というルートです。
今回の旅行も素晴らしい機会や物に出会えて、素晴らしい4日間でした。
ヴィンテージ生地の発掘
初日は大阪。
新幹線を降り、ホテルに着くやいなや荷物を投げ捨て、すぐさま向かったのは生地屋の事務所。
いつもお世話になっている、ヴィンテージの生地を扱っているおっちゃんに会いに行きました。
すべての業界で、古き良きものが無くなっているのが現状ですが、バブル期に無数の舶来生地を買い付けていた日本には、まだヴィンテージの生地の山々があるところに眠っています。
その総本山に行きつき、朝がくるまで時間がかかるであろう大量の生地の山々から、鼻息をふんふん鳴らしながら、気がつけば3時間、ずっと生地を見ていました。
生地は大量にあるのですが、いかんせん80年代前後の生地ですので、今の時代とはセンスが違います。
器や食器、家具などは身につけるものではないので、明治や江戸時代のものでも、ノスタルジックに愉しむことができますが、社会性を必要とされるテーラードに関しては、クラシックスタイルとはいえ、古臭くては意味がありません。
現代にも通用するヴィンテージ生地となると、その山のような生地から候補はかなり絞られます。
その1%以下の最終選考に残る子たちを厳選するわけですから、なかなか骨が折れる仕事なのです。(わたしは趣味なので楽しくて仕方がないのですが笑)
今回、生地を見ながら、昔のカタログを発見し、眺めていました。それがとてもエレガントなのです。
1981年のホーランド&シェリーのカタログ。
どことなく時代を感じるのは致し方ないですが、サイジングやセンスは今でも通用する雰囲気です。
アパレル業界に未来があり、たくさんの魅力的なものが生まれた80年代だからこそ、作られたものがたくさんあります。
このカタログの中に載ってある生地もストックに眠っておりました。つまり1981年に作られたもの。
41年間、わたしを待っててくれていたようで、これだからヴィンテージの発掘はやめられません。
ヴィンテージ生地は古着と異なり、仕立ててしまえばもうおしまいです。なので出会いは本当に一期一会なのです。
今回買い付けた生地です。全てではありませんが、一部ご紹介いたします。
よくまぁこれだけシンプルな生地が見つかりました。
ヴィンテージのドーメル、ホーランドシェリー、ジョンクーパー、ルイスウールン、、、
今はなき生地メーカーもあり、古き良き時代に思いを馳せます。
美しい生地です。。
最後の2枚はエスコリアルウール。最高級のウールと呼ばれる生地です。
ジャケットに使いたくなりますが、ウールで生地もしっかりしているため、スーツにもできます。エスコリアルウールのスーツ、、試してみたいです。
今回も、かなりクオリティの高い生地を発掘できてよかったです。
生地屋の方も、こんなのもあったんですね、、と驚いてました。わたしの探検心が功を奏して、時代を匂わせすぎないシックなものを見つけられたと思います。
個人的に、これは自分で仕立てたい、、と押さえておきたい生地もいくつかあります。
どのように料理しようか。。自分の洋服の場合は完成予定日関係なく、じっくり考えることができます。
その先に面白いことを思いついたりするものです。
最近生地を買い付けすぎているので、破産しないか、ヒヤヒヤしています。(切実)
ですが、本当に良いものだという確信はありますので、この仕事を一生やる限りは、確実に資産になるでしょう。
すぐに売る必要がないもの。
そして、暖めていればいるほど価値が高まるもの。
そのようなものを買い続けています。
すでに店の生地棚には収まるはずもなく、自宅にも生地の山ができております。笑
そろそろ秋物がスタートしますので、ぜひご興味のある方は仰ってください。
その夜、大阪人のおもてなしの深さに身体がついていけなかったことは言うまでもありません。
わかる人だけでいいという世界
今回神戸に向かった理由のひとつに、SPEAK EASY(スピークイージー)というヴィンテージの眼鏡を販売しているお店に行くということがありました。
特に何かを買うつもりではなかったのですが、ドアを開けたら最後、数多の眼鏡をかけて興奮していたことは隠しきれません。
よくよく見ると、いいツボの押さえ方をしているものばかりです。一見普通の顔をしているけど、実はとても手が込んだもの。
ヴィンテージの眼鏡の市場は価格が年々高騰しています。(10年前と比べると4,5倍になっています…)
いまや高騰していないものなんかない現代の世の中ですので、何も特別なことではありません。(革靴は特にすごいですね、、)
今回購入したヴィンテージの眼鏡はこちら。
1940年代のフランス製。CEBOという工場で作られたもの。
いつも、行きつけの都内のレンズ専門店に行き、レンズを入れてもらっています。
15%だけブルーの色が入っているカラーレンズを入れました。斜めから見た時にうっすらと色が入っているのが見えるくらいで、とてもいい雰囲気になります。
このフレームを見て、誰がヴィンテージのフレームだと気がつくでしょうか。
おそらく1%もいないでしょう。
しかし、今回の旅行でふと出てきた言葉がありまして、
“すべての物事は、わかる人にだけわかればいい。
わかってもらいたいという気持ちがあるうちは、真のセンスがいい人とは言えない。“
ということ。
センスがいい人は、
「この服いい服だねって気づいてもらえるかなぁ、、ワクワク」
という風には1ミリも思っていません。きっと
そして私が思う、真のお洒落な人は、
“Tシャツを着るようにスーツを着て、スーツを着るようにTシャツを着られる人“
だと思うのです。
これは、どちらにも差はないということ。どちらを着るときも自然体であるということ。
それが真の洒落者だとわたしは思います。
ヴィンテージの眼鏡も、隣に巷で売られているものを並べてみると、全くオーラが違います。
このオーラに気がつけるかつけないか、そこに人生をかけて取り組んでいきたいですね。
今回の旅行も内容が濃くなりすぎたので、2回に分けて書いていこうと思います。
ですが、来週まではお待たせしないようにしますので、近いうちに神戸→京都編を書きます。
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-Atelier BERUN-
東京都港区元赤坂のビスポークテーラー
洋装士:竹内大途